実写化の難しさ、何気ないシーンから見てみよう?

実写化。
それは漫画好きにとって、きっと主として恐怖の対象
大好きな作品が現実という壁を無理矢理越えていき、無残に散っていく姿を見たいファンはそうそういないはず。


そして実写化の波(?)は国内に留まらず、今では海外からの情報を見聞きする事も。
パッと思い付いたものだと、例えば「DRAGONBALL EVOLUTION」
自分は視聴していないので詳しく言及する事は致しません。
但し、その出来は自分が海外に滞在していた時に、各国の人間から酷評されていたのが強く記憶に残っています。
他にも少し前に「BLEACH」がハリウッドで実写化確定(?)なんて話もありましたな。


ともあれ実写化の是非はさておき、どうして実写化が難しいのかは幾つか意見が分かれる所かと思います。
まず考えられるのは、設定や世界観を再現する事の難しさでしょうか。
大雑把に言えば実写化=リアルで作品を再現する事なので、現実に存在しない設定や世界観は難易度が極めて高い。
骨太なファンタジーやSF(Sci-Fi)はモチロンですが、その要素が作中に一部存在するだけでも辛いはず。


また、現実に同じような事物があっても、作品内にまでは追い付いていない場合もあるはず。
例えばとある魔術の禁書目録とある科学の超電磁砲の舞台でもある“学園都市”。
とある魔術の禁書目録(インデックス) 1 (ガンガンコミックス)とある科学の超電磁砲 1―とある魔術の禁書目録外伝 (電撃コミックス)
現実にも“学園都市”と名のつく地域は存在しますが、科学と魔術が交差する気配はないと断言できます。
とは言え、今は技術の進歩である程度はどうにかなるかもしれませんが、それには結構な予算や労力が必要かなと。


或いは、魅せゴマや決め台詞を再現する事の難しさ※1
見開きで描かれるような必殺技や切り札の解放は大いに燃えるものですが、実写になると著しく寒い危険性が。
呪文詠唱や大技前の口上なんかも、実際に一人で呟いていると大分アブナイ印象を受けるでしょう。
一例として、「断裁分離のクライムエッジ」最新5巻緋鍵龍彦)より。
緋鍵龍彦『断裁分離のクライムエッジ 5』メディアファクトリー, 2012, p.69
このシーン(正確には、本シーンまでの一連の流れ)、武器・格好・場所の再現までは頑張れそうな気がします。
ただ、階下の主人公達に向けて言っているとは言え完全に独白なので、実写での魅せ方はさぞや難しいだろうと思うのです。


さて、ここまでは作品的に大きい所を挙げてみましたが、今回のメインは本記事タイトルの通り。
つまり、所謂何気ないシーンでも、実写化するのは十二分に難しいのでは?
こう思ったのは、『楽園 Le Paradis』最新8号の「マイディア」最新話(かずまこを)を読んでいた時でした。
かずまこを「マイディア 5」『楽園 Le Paradis 8』白泉社, 2012, p.70

…折れやすいもんな ケータイ
この場面、今回だけの話で考えても実際何気ないワンシーンだと思います。
そして喋っている彼は、主人公:成田先輩の恐らく親友であり、この場面も彼の親友だからこその理解が滲み出ているのです。
けれど、もし実際に虚空を見ながら「…折れやすいもんな ケータイ」と呟く男子高校生がいたら、ともすれば別作品に。


もう一つ何気ないシーン再現の難しさを考えたのが、ゲームですが「WHITE ALBUM2」のPV※2をリピートしていた時。

1分半ほどヒロイン紹介を兼ねた場面・台詞が続き、1分34秒から主人公の台詞と共に締め。
忘れよう
あの時の雪も
それから……アイツも。
各ヒロイン達の台詞は明らかに主人公に向けて言っているものなのに対し、主人公の台詞は対話なのか独白なのか不明。
この流れだと空に向けた独り言の印象の方が強いかと思うのですが、この台詞を実際に空に向けて言ったら非常にシュール。
自分が一歩引いて俯瞰的に見てしまっている可能性は大いにありますが、PV視聴時には思わず吹き出します。


モチロン、序章ことICをプレイしていれば自然に聴こえるであろう場面は幾つか想像できますが、それとは別問題。
初見だけでなく今でも吹き出すのは、この台詞が(何気ない独白だと仮定した場合に)不意打ちめいた効果を発揮するから。


そう、何気ないシーンは作中において文字通り何気ないですが、日常や世界観を影から支える縁の下の力持ちだと思います。
そういう何気ないシーンが密に連なった上で、要所要所に魅せ場や決め台詞が入るからこそ、作品が締まって映える。
言い換えると、もし何気ないシーンの実写で手を抜くと、違和感の拭えない不自然な空気が始終流れてしまうのでは…?


ゆるゆると綴ってみましたが、
作品の根底をなす設定や世界観
作品の主眼をなす魅せ場や決め台詞
縁の下の力持ちの何気ない場面
今回挙げた3つの点だけでも、全ての点で実写化は難しい気がします。
実際には更に多くのポイントがあると思うので、作品の細部に至るまで実写化と言うのは難易度が高い行為だと思ったのでした。
そして一漫画ファンとしては、つい先日最終回を迎えた「孤独のグルメ」のようなファンも原作者も喜ぶ実写化が増える事を切に願います。
孤独のグルメ DVD-BOX


※1
但し、決め台詞や魅せシーンを現実でも決めるという点では、TRICKは良く出来ていた気もします。
しかし既に10年程も昔の事なので、大分記憶は曖昧になってしまっていますが…。


※2
小春が本当に可愛い。
でもOPムービーのムッとした顔が入っている方が、更に本当に可愛い。

小川麻衣子リターンズ!きっと楽しい地球侵略!? - 「ひとりぼっちの地球侵略」

ゲッサンという月刊の漫画雑誌があります。
正式名称は『月刊少年サンデー』という訳で、サンデー系列の少年漫画誌です。
ゲッサン 2012年 04月号 [雑誌]
創刊から約2年半と雑誌としては若い(?)部類に入るかもしれませんが、内容は安定のオモシロさ。
その理由にベテラン勢とフレッシュ勢の調和・ジャンルの幅広さ等が挙げられるかと思いますが、一言で言えば盤石
初期の連載開始作品では、破竹の勢いを見せる歴史活劇信長協奏曲石井あゆみ)や
加速し続ける音楽・青春・少年漫画ハレルヤオーバードライブ!高田康太郎)が特に有名かなと思います。
信長協奏曲 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)ハレルヤオーバードライブ! 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
また少し前には、一風変わった(?)、けれど心地よい港町の喫茶店の日々を綴った「ちろり」小山愛子)や
マイガール」でもお馴染みの佐原ミズ先生らしい、夢を追う等身大の少年漫画「鉄楽レトラ」も始まる等、
ちろり 1 (少年サンデーコミックス〔スペシャル〕)鉄楽レトラ 1 (少年サンデーコミックス〔スペシャル〕)
少年漫画らしさを軸に、よりカラフルに間取りが広がり、読んでいて華やかさが増してきたような気が。


さて、そんな『ゲッサン』で個人的に忘れてはならない作家だと思うのが、小川麻衣子先生。
ゲッサン』の初期から連載していたとある飛空士への追憶」のコミカライズは、
名コミカライズの一つとして挙げられる、スバラシイ出来
だったのではないかと思っています。
とある飛空士への追憶 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
昨年始めに同作が完結した後は定期的に読み切りを掲載、新連載への期待と熱が(個人的に)高まっていました。
ちなみに、その読み切り「8月の面影」と「ひとかどのまちかど」は「とある飛空士への追憶」最終4巻に併せて収録されています。
(どちらも異なる方向性で、それでいて小川麻衣子先生らしいほろ苦さや甘酸っぱさが詰まっており、つまりオススメです)


ともあれ、個人的に心待ちに信じていた小川麻衣子先生の新連載が、遂に今月号から始まりました!
連載としては一年ぶり、いざ表紙を見た時は心の中で静かに「俺(達?)は君を待っていたッッッ」な気分。
という訳で胸が踊るのはモチロンですが、この新連載、何やら“新鮮”なのです。


タイトルは「ひとりぼっちの地球侵略」で、表紙の謳い文句は「本日、 侵略 日和なり。」。
高校入学の日、主人公の広瀬岬一が奇妙な先輩(女子)に文字通り襲われかけ、物語は幕を開けます(大雑把なまとめ)。
小川麻衣子「ひとりぼっちの地球侵略 1」『ゲッサン』小学館, 2012, p.36
かつて見たUFOの群れ、ミステリアスな先輩(女子)、崩れ落ちる平和な日常などなど、謎を孕んだ物語は始まったばかり。
それでも、小川麻衣子先生の作品にしては珍しいくらいに直球ド真ん中ストレートな印象を受けました。


とは言っても、小川麻衣子先生の今までの作品が悉く捻っている・斜め上を行っているという訳ではないはずです。
『サンデー超』時代の読み切り作品を含めて考えてみても、ボーイ・ミーツ・ガール等の少年漫画の王道的要素はありました。
ただ本作は『ゲッサン』内や他の少年漫画誌掲載の作品と比べてみても、王道を上回る極めて少年漫画らしい一話だった気がします。
故に、小川麻衣子先生らしい雰囲気+ビックリするくらい濃厚な少年漫画の化学反応という意味でも期待できるのかなと。


但しその一方で、いつもの小川麻衣子先生らしさもバッチリ確認済み。
それが、少女の個人的に被虐心をくすぐられる良い笑顔。
小川麻衣子「ひとりぼっちの地球侵略 1」『ゲッサン』小学館, 2012, p.63
この一コマだけだと普通の良い笑顔に見えるかもしれませんが、この笑顔に至るまでの流れを読むと
きっと多くの読者が、その笑顔で踏んで下さいと願う事は想像に難くありません
この素敵な笑顔は、『つぼみ』で不定期連載中の「魚の見る夢」でより顕著なので、特に踏まれたい人はチェック推奨。
(但し踏まれたくなるのはあくまでも副次的な要素で、随所から感じられる仄暗さやフェティッシュさが一番の魅力かなと)


本作はまだ一話という事で、紹介できる部分は決して多くありません。
ただ現時点で確かなのは、待望の小川麻衣子先生の新連載は“らしさ”と“新鮮さ”を共に纏った作品だという事。
一話時点では“新鮮さ”の比率の方が大きい気さえして、ますます目が離せない予感がします。


ちなみに、2012年1月号からは「FLIP-FLAP」や「友達100人できるかな」でもお馴染み、
とよ田みのる先生の新連載「タケヲちゃん怪物録」も始まっており、コチラも要注目です!


正直、『ゲッサン』は全体的に、パッと見では良く言えば控え目・悪く言えば地味な所はあると思っています。
けれど実際に通して読んでみると、冒頭にも書いた通り、トータルで安定したオモシロさがあるとも思うのです。
この「トータルで」というのもミソで、作品の入れ替わりが起こっても盤石な満足度は不変な印象を自分は持っています。
最後に些か蛇足な総括だったかもですが、ともあれ『ゲッサン』&小川麻衣子先生の新連載、オススメです!!

「バッドエンド詰め合わせな恋愛作品集」に対する反応と今後考えるべきポイント

先日、主にテンションのみでこんな記事を書きました。
[漫画雑記] 求ム!バッドエンド詰め合わせな恋愛作品集!
ツイッターやコメントにて、率直に申しますと予想以上の反応がありました。
同意共感したものや考えさせられるものも多く、今後の参考にさせて頂きます。
まず、ご反応下さった方には感謝です。


その反応の中で、作品に関する言及以外で考えさせられたのが以下の2つ。

mercury_c @xiang4ri4kui2 「バッドエンド」って客観的な状況はバッドでもキャラクター(複数だとややこしいので単数で定義)はポジティブに受けるタイプと、全く幸せの兆しが見えず終わるタイプと大きく二つに捉えてますが(ループ系のような過程のバッドは除く)、これは後者も含んでますか? link
UEach ... う〜ん、自分で書いていて、ブレてるなと思う。そもそも、バッドエンドな恋愛漫画ってなんだろう。アンハッピーエンド イコール バッドエンド なのか ? link
つまり、一口に「バッドエンドな恋愛作品」と言っても
・キャラクターと読み手の感じ方
・過程と結末それぞれの時点
・バッドとアンハッピーの差
といった点で分かれそうだという事で、なるほどなぁと。


このあたり、テンションで書き上げたために考慮が足りていなかったなぁと反省しております。
同時に、このポイントを考えていくと「バッドエンドな恋愛作品」がより具体的になるとも言えるはず。
という訳で、主にこの3点を今後考えるべきポイント、自分への宿題としたいと思います。
自分好みのバッドエンドな恋愛を探す旅は、まだ始まったばかりだ!

相反する属性の「好き」と比例する心の重苦しさ

いきなりですが、数日前にWHITE ALBUM2」コンプしていました。
WHITE ALBUM2(「introductory chapter」+「closing chapter」セット版)
引き続きガッツリはまっているので、現在はゆるゆる再プレイ中。
勧めて下さった先人達の言う通り、再プレイで気付く機微も多くほくほくです。
既に再プレイに片足を突っ込んではいますが、1度コンプした状態の勢いで感想も書けたら書いてみたいものです。


但し、今回はちょっと違う趣の話を、どのヒロインが好きかという話と絡めて。
ともあれ、先日のゴルゴ31氏のラジオの発言に同意する形で、
本作で「嫌いなキャラは皆無で、皆(特にヒロインは)好き」というのが大前提になります。

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無職よ、常に余裕を持って優雅たれ? - 「34歳無職さん」

私的かつ情けない事ながら、年明けから先週末まで忙殺されておりました。
その間は漫画からも殆ど離れてしまっていたのですが、自分にとって漫画は一番の趣味。
時間、精神、体力に余裕ができた時には、本当に少しの量でも貴重な癒しになっていました。
しかし、3月頭に解放されるまでは、むしろ絶対に読まないと決めていた作品があったのです。
34歳無職さん 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
その作品が、この「34歳無職さん」。
作者はささめきこと」でもお馴染みいけだたかし先生。
作者曰く、元々は『コミックフラッパー デジタル臨時増刊号』で何となく続いていた本作。
昨年末、「ささめきこと」が大団円を迎え完結したのを機に、『コミックフラッパー』本誌にて連載を開始。


内容は、そのタイトルの通り、34歳女性の無職の日々
取り立てて大きな事件などはなく、むしろ無職であるが故に一日の時間が余りまくる。
そんな一見するとウラヤマシイ(でも実際には堕落しそうな)日常生活が描かれています。


その内容上、自分にとって本作は『フラッパー』で気軽に楽しめる箸休め(?)的ポジション
あくまで自分の感覚ですが、『モーニング』における「う」(ラズウェル細木)に近いかもしれません。
う(1) (モーニングKC)
重厚・濃密な作品の中のワンクッション、楽しみと癒しを同時に得られる雑誌に欠かせない一作。
同時に一話一話は短め・内容も軽めなので、コミックスでまとめて一気に読むのも楽しみというもの。
という訳で、この「34歳無職さん」はコミックス発売も心待ちにしていた作品の一つでした。


しかし冒頭にも書いた通り、2/23に発売した本作を読んだのは今週になってから。
理由は簡単で、本作を忙殺されている時に読んでしまったら、もうそこから頑張れないと危惧していたからです。
それは、何にも追われる事のない怠惰な無職な日々に憧れてしまいそうという事だけではなく。
そんな日々を自分から選ぶという生き方が眩しくて、でも忙殺時には眩し過ぎるからと言うのもあります。
いけだたかし『34歳無職さん 1』メディアファクトリー, 2012, p.9

先月勤め先がなくなった
再就職先など気遣ってくれる口もないではないが
まあ色々思う所あって
一年間何もせずにいようと決めた
こんな事情により、無職さんは無職に。そう、ある意味では能動的な無職なのです。
「一般に働き盛りと言われる三十代半ば」と説明もされている通りで、彼女には一定以上の蓄えがあるはずです。


作中では無職故に節約を心掛けてはいますが、決して財政が火の車な貧しい生活ではありません。
思わず新しい掃除機を買ってみたり、友人との食事ではしっかり割り勘をしていたり。
更に金銭的余裕だけでなく、精神的余裕もあるように(自分には)思えます。
料理(果物含む)、掃除、洗濯(布団含む)…などなど、正直優雅です。


けれど、無職で独りであるが故の寂しさや虚しさ、居心地の悪さがない訳ではありません。
例えば陰鬱な雨の日、何となく物事が上手くいかず、けれど手持ち無沙汰な時。
ならば何もしないとばかりに、何もせずゴロゴロするを実行してみても心は落ち着かず休まらない。
いけだたかし『34歳無職さん 1』メディアファクトリー, 2012, p.71
…ゴロゴロくらい気楽にしようや
同じく雨が苦手で、休むのが下手くそ極まりない自分は、この場面に激しく同意しました。


また気の置けない友人との会話では、
無職な自分の事をカッコ悪いと思う本音を語ったり、
何となく感じる世間への申し訳なさを吐露したりもしています。
いけだたかし『34歳無職さん 1』メディアファクトリー, 2012, p.130
でも、その時のイタズラ小僧のような苦笑いも、自分からするとカッコイイと思えるのです。
そんなカッコイイようなカッコ悪いような、ポジティブ気味な34歳無職の日々。
『フラッパー』本誌でも、コミックスでも、違う気分で楽しめるお気に入りです。


ちなみに後書きにて、
・「34歳無職さん」は某お絵描き掲示板で描いていた一枚絵シリーズから誕生したという経緯
「もうちょっと知りたい人は『34歳 無職さん』でググると良いかもよ!(ネタバレ注意)」
といった事が書かれています。
『フラッパー』での連載は概ね元ネタ絵に基づいていると思われるので、気になる人はネタバレ覚悟でチェック。
しかも元ネタ絵の終盤がヒジョーに気になる所で終わっており、今後の連載も実に楽しみ。


ちなみにちなみに、冒頭で「ささめきこと」には少々触れましたが、
個人的にはデビュー作も収録されている短編集「プラトニック・ホーム」もオススメです。
プラトニック・ホーム―いけだたかし短編集 (MFコミックス)
日常や思い出の中に確かに在る、色々な想い。
その想いを見詰め直したり、切り取ったり、懐かしがったり。
全体的な雰囲気はやや仄暗いですが、言葉にし難い色々な想いの形が詰まっています。

2種類の天才の聖域と混ざり込む純粋な歪み - 「鉄風」

good!アフタヌーンという隔月の漫画雑誌があります。
誌名にも名残がある通り、『アフタヌーン』の増刊号です。
good! (グッド) アフタヌーン 第21号 2012年 04月号 [雑誌]
以前に感想を書いた事があるサヤビト」(伊咲ウタ「ビリオネアガール」(桂明日香×支倉凍砂の他にも、
[伊咲ウタ] 足りないモノを補い合える二人だけの“絆” - 「サヤビト」
[桂明日香×支倉凍砂] 自分を変えるために、思い切って一歩踏み出す勇気、超えていく圧倒的格差 - 「ビリオネアガール」
昨年完結を迎えた作品も含みますが、破天荒かつ秀逸なギャグマンガハルシオン・ランチ」(沙村広明)、
SF(少し不思議)な日常と非日常が織り成す文化祭を巡る群像劇「水面座高校文化祭」(釣巻和)、
胸に染み入る恋愛作品「路地恋花」(麻生みこと)、胸がザワツク恋愛作品「夏の前日」(吉田基已)、
肝を冷やす恋愛作品「こはるの日々」(大城ようこう)などなど、この選り取り見取りなカオスさは『アフタヌーン』っぽいかなと思います。


そんな様々な魅力を持つ作品の中で、自分が最も楽しみにしていると断言できるのが鉄風」(太田モアレです。
鉄風 1 (アフタヌーンKC)
本作のテーマは、女子総合格闘技。ともあれ、格闘技に造形がなくても無問題。
とは言え、格闘技の「か」の字も知らない自分でも十二分に楽しめています。
その理由の一つは、作中に上手く挟まれる格闘技の解説かなと。
その分かりやすさがあった上で、もう一つのテーマ:努力と才能の魅せ方が本当にお見事。
本作は、天才故に努力に憧れる主人公:石堂夏央を取り巻く様々な「才能」の形の物語とも言えるでしょう。


そして今月号の最新話では、個人的に静かだけれど大きな躍進――ゆず子の再評価が描かれました。
単行本4巻、現在20話、ライバルの馬渡ゆず子というキャラクターは夏央と対比する形で描かれてきました。
圧倒的な強さで、格闘技を心の底から愛し楽しみ、屈託のない笑顔を向け、ただひたすらに純粋で歪みがない。
過程と目的(ゴール)で言えば、過程をすっ飛ばしてスタートとゴールが一致しているが如く。
しかし、ここに来て身近にいる者から彼女への疑問が投げ掛けられます。
太田モアレ「鉄風 20」『good!アフタヌーン』講談社, 2012, p.211

真っ直ぐ過ぎて逆に歪んでいる気がして……
なんでだろう
リンジィと似てるようで根本の部分で違う気がする……
最新話では、他にも様々なポジションのキャラクター達を通して、改めてゆず子を見詰め直す事となります。
ライバルの夏生曰く、「純粋に格闘技に打ち込めてる感じがする」
その理由は、「目的というか……向上意識に才能が追いついている」から、純粋に楽しめると彼女は続けます。
但し夏央からすれば、その澱み・歪みのない才能の在り方は「図々しい」と映る訳ですが。


それでは、敢えて言うならば、やはり彼女も天才の一人でしかないのか?
格闘技を愛しているのも、努力を惜しまないのも、明確な結果を出せるのも全て才能のみによるものなのか?
そう思った所で、また別の、恐らく今の夏生よりも遥かに高い視点から彼女が評される。


ゆず子が直前に破った大会優勝候補の期待の新人、その師匠:本間三津子。
夏央の師匠:紺谷可鈴と並んで日本女子格闘技界の双璧と呼ばれる人物。
ちなみに二つ名は「西の魔女」で、その二つ名に恥じない魔女っぷり(?)の片鱗も今回お披露目されます。
太田モアレ「鉄風 20」『good!アフタヌーン』講談社, 2012, p.208
大成出来る子は決まってるの
「業」のある天才か「才能がないと思い込んでる」天才……
そのどちらかでなければ、たとえ天賦の才を持っていても真の成功へは至れないと彼女は心の中で断言する。
同時に、ゆず子に敗北して心が折れ(掛け)てしまった自分の後継者には見切りを付けているはずです。
しかし、その魔女のゆず子への評価も、やはりどこか歪みを孕んでいる。
でも……あの子はちょっと違う気がする
アレ・・は何やろうか?
魔女の口からゆず子が大成出来るか否かは明言されていませんが、少なくとも出来ないラインには絶対にいないはず。
その上で、ゆず子は(彼女が言う)2種類の天才のどちらとも少し違うように見えると。


今までは主人公である夏央に焦点が当たっていて、彼女は歪んでいました。
才能を持つが故に、努力する事に飢え、退屈や寂しさを感じ続ける。
そんな傲慢が生み出す不満のループから逃れられない。
だから傍目には理解できず、「大事な何かが欠落している」とまで言われています。
太田モアレ『鉄風 3』講談社, 2010, p.143
こう書くと大層歪んでいる気がして、実際に歪んではいるでしょう。
ただ、打ち込む対象を決めてスタートから何もかも文字通りに吸収していく様子は、作中屈指に純粋な気もします。
スタートは歪でも、目的へ向かう過程は真っ直ぐで、師匠曰くメンドクサイ。


でも、夏央は自分が歪んでいる事に少なからず幾ばくかの自覚があるはずです。
一方のゆず子は、歪かどうか自覚的でなく、底も知れない分からない、それでいて才能も努力も楽しみも持っている。
すると、もしかしたら天真爛漫を絵に描いたようなゆず子の方が実は歪なのかもしれないなぁと。
そんな静かな、けれど同時に確かな違和感が最高にオモシロイ「鉄風」最新話でした。


尚、きっと今回の話まで収録される気がする最新5巻は5/7発売
つまりgood!アフタヌーン』最新号と同時発売なはずなので、まとめて確保するとダブルで美味しいかと思います。


ちなみに、今の大会が始まってから魅力的な女子が一堂に会して、別の意味でも楽園(ル・パラディ)
本記事だけでもゆず子と同じ格闘技部部員が可愛かったり、魔女が麗しかったりと言いたい事はありますが、
夏央の唯一と言っても良い友人:二ノ宮ケイや夏央が所属する竹中道場の面々もカワイイヤッターです!
興奮で胸を焦がしながら、女性の魅力に胸をときめかせられる「鉄風」バンザイ。

求ム!バッドエンド詰め合わせな恋愛作品集!

突然ながら、バッドエンドが大好きです。
もう少し言うと、肉体的なバッドエンドよりも精神的なバッドエンドがより好きです。
葛藤、苦悩、後悔、未練、破滅、慟哭、絶望などなど。
バッドエンドの時の苦しくも鮮烈な輝きに目も心も奪われます。


更に更に大好きなのは、そのバッドエンドの傷を引きずり生きて行く事。
消えない傷や痛み、忘れられない罪の記憶や自責の念を背負い続ける様はとても甘美です。
とは言え、その痛みに引き裂かれては、重みに押しつぶされては(自分の)悦楽の時は終わってしまう。
そのため、バッドエンドに苛まれ続けながら、傷を引きずり生きていってもらいたい。


そんな自分にとって、恋愛におけるバッドエンドは
赤面ニヤニヤ悶絶なラブコメと同じくらい、極上の恋愛作品と言えます。
破局してしまったカップルが再会してしまった時の気まずさ・よそよそしさ。
自分だけが過去に囚われ、いつまでも想い出から離れられず、陥る孤独と絶望。
ベクトルは真逆ですが、恋愛作品は正の方向に進んでも負の方向に進んでもスバラシイ。


そこで問いたい! 精神的バッドエンド詰め合わせな恋愛作品集を!!
と言うのも、バッドエンド詰め合わせの恋愛作品集が思い付かなかったため。
バッドエンドだけならば、例えば「狼の口 〜ヴォルフスムント〜」(久慈光久)がそうでしょうか?
狼の口 ヴォルフスムント 1巻 (BEAM COMIX)
Fellows!』で連載中、史実を基にした「狼の口」と呼ばれる関所を巡る血塗られた歴史の物語。
現在は反撃の狼煙が上がり掛けている展開ですが、その一縷の希望は多くの犠牲と絶望の上に成り立っています。


という訳で、「狼の口」のように、バッドエンドが延々と続く「恋愛」作品集が読みたいなと!
しかし浅学迂闊な自分では思い付けない故、一人でも多くの方のお知恵を拝借したい!
具体的には、以下のようなものを「バッドエンド詰め合わせな作品集」として想定しています。

複数のカップルのバッドエンド

まずは一話完結、或いは前後編や3話くらいの短編で複数のカップルのバッドエンドが続いていく方式。
他の作品を喩えに出すのは悩みましたが、分かりやすさ重視で敢えて挙げるならば
バッドエンドに特化した「はつきあい」(カザマアヤミ)です?
はつきあい 1 (ガンガンコミックスJOKER)
尚、複数のカップルのバッドエンドという所に焦点を置いてはいますが、
初恋故の強大な反動や傷もバッチコーイ!!(爽やかな笑顔)


ただ、実際の作品内容はベクトルがド真逆で、120%赤面ニヤニヤ悶絶な極上ラブコメ
なのでもしかすると、禁忌的・破滅の香りがしなくもないという点では、
妄想少年観測少女」(大月悠祐子)がより近いのかもしれません?
妄想少年観測少女 1 (電撃コミックス)
公にできない彼等1人1人の本性は、最良のパートナーを得てより深く2人の快楽へと進んでいく。
でも深淵を覗きすぎて、ふと戻って来れなくなっても、深い傷を負うのもグレートですよ!?

同じカップルが繰り返すバッドエンド

さて、1つ目の案が異なるカップルのバッドエンド集ならば、
2つ目の案は同一のカップルのバッドエンドを繰り返す方式。


とは言っても、誤解や喧嘩を繰り返して傷ついて仲直りして…ではなく、
文字通り彼等にとって初めての出逢いから初めての違うバッドエンドが見たいのです。
つまり、所謂ループや平行世界で同じカップルがバッドエンドを繰り返し続ける世界観。


こちらも分かりやすさ重視で敢えて例を挙げるならば、
バッドエンド特化の「キスメグルセカイ」(ジェームスほたて)になるでしょうか?
キスメグルセカイ (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
異なる世界を渡り歩き、異なる世界の環先輩と逢瀬を繰り返す。
同じ「環先輩」だけれど、その容姿は世界毎にバラバラ。


「それでは同一のカップルとは言えないのでは…?」という疑問もあるかと思うのですが、
本当に「環先輩」が違う人物なのかは作中のテーマとも関係するため、ここでは割愛。
けれど、本当にバラバラだったとしても、だからこそ心の動き・比重に差異がありそうで、
その分バッドエンドのレパートリーも増えていく可能性があります! エクセレント!


同じカップルが逃れられない絶望をループする所にフォーカスを当てるなら、
「時間の歩き方」(榎本ナリコ)の前半がしっくり来るかもしれません。
時間の歩き方 I (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
「時間の歩き方」については、以前真逆の視点から感想を書いておりますので宜しければそちらも是非。
[榎本ナリコ][久米田夏緒][水谷フーカ] 時間の理を超える!決して消えない人の意志!

それ程までに強大な時間を相手に、諦めず抗い闘い続ける彼女に、ひたすらエールを贈りたくなるのです。
「このエールの何と白々しい事…心の底ではそう思っていたなんて、バッドエンダードン引きだよ…」
と思われる方もいるやもしれませんが、エールを贈りたくなるのも真摯な本当の気持ちです。
ただ、「もしこうだったら…」というifを夢見る、そのifの一つが
「同じカップルのバッドエンドを繰り返す」なのです。


バッドエンドのループだけなら「ひぐらしのなく頃に」や「魔法少女まどか☆マギカ」等々。
往々にして最後には解決や幸せな結末に辿りつきますが、途中まではバッドエンドの繰り返し。
むしろ、バッドエンドの繰り返しがあるからこそ、最後のエンディングが映えるのでしょう。
なら、同じカップルのバッドエンドが延々と続いていく様は、
きっと心を深い絶望へと誘い続け、磨耗させていく
はずです。



と、だらだら、しかし情熱を全力で注ぎ夢見るような表情で書いてみました。
以上の条件外のものでもモチロン大歓迎ですので、
「バッドエンド詰め合わせな恋愛作品集」の情報をお持ちの方は是非ご教授下さい!
画面越しではありますが、最高の笑顔と興奮で(あわよくばラジオで)感謝致します!!



一応補足しておくと、自分はハッピーエンドや純愛も大大大好きです。
ただ、それと同じくらいバッドエンドや絶望的な展開も大好きなのです。
どちらも好きな事を強調しておかないと、バッドエンドや絶望しか好きでない人と思われる事も多いので念のため。
ホ、ホントダヨ!