実写化の難しさ、何気ないシーンから見てみよう?

実写化。
それは漫画好きにとって、きっと主として恐怖の対象
大好きな作品が現実という壁を無理矢理越えていき、無残に散っていく姿を見たいファンはそうそういないはず。


そして実写化の波(?)は国内に留まらず、今では海外からの情報を見聞きする事も。
パッと思い付いたものだと、例えば「DRAGONBALL EVOLUTION」
自分は視聴していないので詳しく言及する事は致しません。
但し、その出来は自分が海外に滞在していた時に、各国の人間から酷評されていたのが強く記憶に残っています。
他にも少し前に「BLEACH」がハリウッドで実写化確定(?)なんて話もありましたな。


ともあれ実写化の是非はさておき、どうして実写化が難しいのかは幾つか意見が分かれる所かと思います。
まず考えられるのは、設定や世界観を再現する事の難しさでしょうか。
大雑把に言えば実写化=リアルで作品を再現する事なので、現実に存在しない設定や世界観は難易度が極めて高い。
骨太なファンタジーやSF(Sci-Fi)はモチロンですが、その要素が作中に一部存在するだけでも辛いはず。


また、現実に同じような事物があっても、作品内にまでは追い付いていない場合もあるはず。
例えばとある魔術の禁書目録とある科学の超電磁砲の舞台でもある“学園都市”。
とある魔術の禁書目録(インデックス) 1 (ガンガンコミックス)とある科学の超電磁砲 1―とある魔術の禁書目録外伝 (電撃コミックス)
現実にも“学園都市”と名のつく地域は存在しますが、科学と魔術が交差する気配はないと断言できます。
とは言え、今は技術の進歩である程度はどうにかなるかもしれませんが、それには結構な予算や労力が必要かなと。


或いは、魅せゴマや決め台詞を再現する事の難しさ※1
見開きで描かれるような必殺技や切り札の解放は大いに燃えるものですが、実写になると著しく寒い危険性が。
呪文詠唱や大技前の口上なんかも、実際に一人で呟いていると大分アブナイ印象を受けるでしょう。
一例として、「断裁分離のクライムエッジ」最新5巻緋鍵龍彦)より。
緋鍵龍彦『断裁分離のクライムエッジ 5』メディアファクトリー, 2012, p.69
このシーン(正確には、本シーンまでの一連の流れ)、武器・格好・場所の再現までは頑張れそうな気がします。
ただ、階下の主人公達に向けて言っているとは言え完全に独白なので、実写での魅せ方はさぞや難しいだろうと思うのです。


さて、ここまでは作品的に大きい所を挙げてみましたが、今回のメインは本記事タイトルの通り。
つまり、所謂何気ないシーンでも、実写化するのは十二分に難しいのでは?
こう思ったのは、『楽園 Le Paradis』最新8号の「マイディア」最新話(かずまこを)を読んでいた時でした。
かずまこを「マイディア 5」『楽園 Le Paradis 8』白泉社, 2012, p.70

…折れやすいもんな ケータイ
この場面、今回だけの話で考えても実際何気ないワンシーンだと思います。
そして喋っている彼は、主人公:成田先輩の恐らく親友であり、この場面も彼の親友だからこその理解が滲み出ているのです。
けれど、もし実際に虚空を見ながら「…折れやすいもんな ケータイ」と呟く男子高校生がいたら、ともすれば別作品に。


もう一つ何気ないシーン再現の難しさを考えたのが、ゲームですが「WHITE ALBUM2」のPV※2をリピートしていた時。

1分半ほどヒロイン紹介を兼ねた場面・台詞が続き、1分34秒から主人公の台詞と共に締め。
忘れよう
あの時の雪も
それから……アイツも。
各ヒロイン達の台詞は明らかに主人公に向けて言っているものなのに対し、主人公の台詞は対話なのか独白なのか不明。
この流れだと空に向けた独り言の印象の方が強いかと思うのですが、この台詞を実際に空に向けて言ったら非常にシュール。
自分が一歩引いて俯瞰的に見てしまっている可能性は大いにありますが、PV視聴時には思わず吹き出します。


モチロン、序章ことICをプレイしていれば自然に聴こえるであろう場面は幾つか想像できますが、それとは別問題。
初見だけでなく今でも吹き出すのは、この台詞が(何気ない独白だと仮定した場合に)不意打ちめいた効果を発揮するから。


そう、何気ないシーンは作中において文字通り何気ないですが、日常や世界観を影から支える縁の下の力持ちだと思います。
そういう何気ないシーンが密に連なった上で、要所要所に魅せ場や決め台詞が入るからこそ、作品が締まって映える。
言い換えると、もし何気ないシーンの実写で手を抜くと、違和感の拭えない不自然な空気が始終流れてしまうのでは…?


ゆるゆると綴ってみましたが、
作品の根底をなす設定や世界観
作品の主眼をなす魅せ場や決め台詞
縁の下の力持ちの何気ない場面
今回挙げた3つの点だけでも、全ての点で実写化は難しい気がします。
実際には更に多くのポイントがあると思うので、作品の細部に至るまで実写化と言うのは難易度が高い行為だと思ったのでした。
そして一漫画ファンとしては、つい先日最終回を迎えた「孤独のグルメ」のようなファンも原作者も喜ぶ実写化が増える事を切に願います。
孤独のグルメ DVD-BOX


※1
但し、決め台詞や魅せシーンを現実でも決めるという点では、TRICKは良く出来ていた気もします。
しかし既に10年程も昔の事なので、大分記憶は曖昧になってしまっていますが…。


※2
小春が本当に可愛い。
でもOPムービーのムッとした顔が入っている方が、更に本当に可愛い。