トークセッション開始〜かずまこを先生・『ディアティア』シリーズについて

本ページは「楽園 Le Paradis」第13号刊行記念トークセッション―「楽園 Le Paradis」を語る―レポートその1です。
トークセッションの概要やレポートの目次等は、以下のページにて。
[楽園] 「楽園 Le Paradis」第13号刊行記念トークセッション―「楽園 Le Paradis」を語る―レポート


自己紹介

飯田編集人より、一人で担当しているので「編集人」を名乗っている※1、という説明。


飯田編集人より今回のトークセッションの経緯

今までにも、今回のように話をしてもらいたいという依頼や誘いは何度かあったが、

  • 漫画の編集は黒子であり、
  • 作家に漫画を描いてもらっている立場(=漫画を作っているのは作家自身)
という考え方なので、お断りをしてきた。
但し、今回は「楽園 Le Paradis」だけでなく、白泉社や日本の漫画業界全体で考えても非常にお世話になっている芳林堂のAさんからの依頼であったため承諾した。


そういった考え方なので、漫画家以上に人様の前でお話をさせて頂くような職業ではないため、取り留めのない2時間になると思うが宜しくお願いします。


かずまこを先生を選抜(?)した理由

百合姫」でデビューをして、現在でも他社で活躍しており、更にオリジナルのゲーム※2で、ファン層が幅広いため。
名前はまだない (IDコミックス 百合姫コミックス)
また、上記の経歴により、男の子も女の子もとてもとても上手く描ける。


かずまこを先生との出逢い

かずまこを先生の作品を初めて読んだのは、「メロディ」の編集長時代※3
百合姫」を含めた、色々な(主に少女)漫画誌を含めて読んでいる中で、ダントツで気になった&気に入った作家がかずまこを先生。
即、読みそびれた不定期掲載分はバックナンバーを取り寄せた。その一連の作品がまとまって単行本化されたのが、『純水アドレッセンス』。
純水アドレッセンス (IDコミックス 百合姫コミックス)
バックナンバーを取り寄せ、当時の「百合姫」掲載の作品を全て読んだ上で、アプローチをして本人との交流も始まった。


かずまこを先生のデビュー経緯

コミティアの出張編集部が丁度できた年に、「百合姫」出張編集部などに、同人誌を持ち込んだ※4
尚、当時の同人誌はBL寄り、恋愛まではいかないが男の子の漫画や、大人と子供のドタバタ物だったため。
『純水アドレッセンス』後書き
「ウチは百合の雑誌だが、女の子は描けるか?」
「ああ、そうだなあ……!」
とにかく持ち込まないと、という時期だったため、失念していた。


丁度、恋愛物の案があって再度お見せしたところ、「百合作品として描けるのであれば掲載が有り得るかもしれない」ということで、急いでほぼ一からネームを切り直した。
そうして完成したのが、「パジャマ夜話」※5。その後、運良く直ぐに、代原として起用が決まった。
「パジャマ夜話」
飯田編集人からの質問:
今でも続きがあるなら読みたい読者も多いと思うくらい、魅力のある一連の作品になった。
『純水アドレッセンス』収録の一連の作品は、編集の意向だったのか? 「パジャマ夜話」はあくまでも1つの読み切りとして、他の全く異なる読み切りを描く選択肢もあったのか?


かずまこを先生からの回答:
「パジャマ夜話」を描いた時、続きを掲載してもらいたいという気持ちがあった。そこで全員分の背景を考え、それ等全てを内包できる1話分の短編にした。
そして続きで構想した背景に沿って松本先生も登場させたが、アンケートでは松本先生とななおの関係を望む声が多く、以降の軸に決まった。


飯田編集人が初めて読んだのは松本先生とななおが初めて出逢う回(「夏窓シンドローム」)で、遡って「パジャマ夜話」に辿り着き、新人作家の1作品目として凄いと思った。
「夏窓シンドローム」
当時は白泉社に入社してから25, 26年目(=編集という職に就いてから13, 14年目)で、仕事柄多くの新人作家の作品を読んでいたが、背景が非常にしっかりと練り込まれていた。


GLやBL、先生と生徒のような禁断の関係は状況・前提が作りやすい※6
けれども、『純水アドレッセンス』収録の一連の作品はそうした状況・前提の作りやすさに全く頼っていなかった。


楽園 Le Paradis」創刊号のかずまこを先生巻頭カラーの経緯

楽園 Le Paradis」が形になっていく大分早い段階で、かずまこを先生に巻頭カラーを依頼した。
その時は『ディアティア』が形になる前だったが、「取り敢えず、巻頭はあなたで」と。
かずまこを先生がとても驚いたことを、今でも覚えている。
『楽園 Le Paradis』創刊1号巻頭カラー
かずまこを先生から:
他の執筆される先生方※7を伺っており、自分は雑誌の中程に載っていれば嬉しい・描かせてもらえるだけでも光栄と思っていた※8
そのため、「自分で大丈夫なのか……」と口には出さなかったが、不安が拭い切れなかった。


飯田編集人からの質問:
ちなみに、今まで「百合姫」でカラーを担当されたことは?


かずまこを先生からの回答:
『さよならフォークロア』の1話目に、巻頭カラーを飾らせて頂いた。
さよならフォークロア (IDコミックス 百合姫コミックス)
飯田編集人が『純水アドレッセンス』と『さよならフォークロア』、『ディアティア』全ての掲載時期を即座に思い出して述べて、「なら巻頭カラーの経験がなかった訳ではないね」という話に。


他の作家※9が巻頭カラーを飾っても、既存の雑誌と代わり映えしない。
巻頭カラーに限らず、表紙にも同じことが言えた。そうした「代わり映えしない」イメージが付いてしまうと、その後何をやっても埋もれてしまうと思った。


『ディアティア』誕生の経緯

そうして百合の作品で惚れ込み、直後に沢山の男の子が出て来るゲーム制作に携わっていると知り、「ハーレム物」を頼んだ。
但し、所謂「ハーレム物」ではなく、男の子がとてもモテる理由・振る理由をしっかり描く内容の作品、というのが『ディアティア』のスタート地点。
その点は、飯田編集人がビックリするくらい即座に、かずまこを先生も理解してくれた。
ディアティア
かずまこを先生から:

  • 百合の雑誌で描く作品を気に入ってくれて声を掛けて頂いた、という土台
  • 男の子も描いて欲しいけど、女の子に華があるから女の子をいっぱい出して欲しい、という依頼
  • 楽園 Le Paradis」という雑誌のカラー
に「ハーレム物」という言葉がピッタリハマって、即座に理解できた。
但し、所謂ハーレム物をあまり読んだ経験がなかったので、所謂ハーレム物での男の子と女の子達の関係性は良く分かっていなかった。
楽園 Le Paradis」での作品に限って言えば、男の子が人気である理由がなければ駄目だろうし、毎号読み切り(=基本的には一話で一区切り付く)と伺っていたので、1話毎に関係性に蹴りを付けていく(=誠実に振る)必要性があると思った。そこで、3回目までは告白される→振るという話の方向性になった。


飯田編集人から:
『ディアティア』シリーズの主人公・秋人は、所謂ハーレム物の主人公らしく、いつも困った憂い顔・柔らかい優男的な表情をしている。
が、だからこそ芯の強い部分が際立つように(=読者が感じられるように)。


打ち合わせを通じて、かずまこを先生があまりハーレム物を読んだ経験はないだろうということは察していた。
一方のかずまこを先生も、飯田編集人が世間で言われている所謂ハーレム物は好みではないのだろうとは何気なく思っていたようだ。


実際、飯田編集人からすると所謂ハーレム物の楽しみ方が分からない。
何の取り柄もない主人公(=僕)と沢山のヒロイン達という構図※10だったとして、するとヒロイン達が「僕」の魅力をわざわざ見つけていってくれるの? それ、ヒロイン達はシンドくない? また、「僕」もそれで嬉しいの?


それならば、モテても全く嬉しくなく、何故かと言えば女の子が苦手だからという男の子を主人公に据えて、上記のスタート地点のような作品で、と。


これまでの『ディアティア』シリーズについて

飯田編集人からの質問:
かずまこを先生としては、『ディアティア』のラストは、1話を描く前の段階から決めていたか?
『ディアティア』という作品はシリーズでなく、単行本1冊で完結させる予定だったか?


かずまこを先生からの回答:
描き始める前の段階では、ラストは全く考えていなかった。
ただ、5話で単行本1冊という話を伺っていたので、3話を描き終わった段階ではラストは大体考えていた。でも結局、考えていたラストにはならなかった。


飯田編集人から補足(?):
かずまこを先生が4話目のエンドカラー(話の最終ページがカラー)を担当することはネームが出来る前から決まっていたが、エンドカラーにピッタリ嵌まる良いネームを描いてきてくれた。
『ディアティア』第4話
『ディアティア』という作品において読者が気に掛かるかもしれないと思っていたのは、秋人の母の存在。『ディアティア』での母の扱いについて、飯田編集人はあの描かれ方のみでも良いと思っていた。
「秋人のお母さんはああだから、秋人と睦子の2人は今後大変だろう……」という声も想像はしていたが、「大変なこともあるだろうけれど、『ディアティア』という作品を通じて秋人が(睦子に)告白して手を繋いで生きていくという決心をした以上、立ち向かっていける」と。


むしろ、『ディアティア』がシリーズになった一番大きな理由は、睦子の親友・葉月の存在。
葉月を含めて「もっと読みたい」という気持ちが湧いてきて、落ち着いて頭のなかで整理をした後、かずまこを先生と話し合った。
そもそも、サブキャラクター※11の注文は全くしなかった。打ち合わせでは、睦子の周囲の人間関係に触れたことすらなかった。
『ディアティア』第3話
飯田編集人からの質問:
1話目の段階で、睦子が周囲の人間(先輩やクラスメイト)に言及する場面があるが、あの時点で葉月の存在は考えていたのか?


かずまこを先生からの回答:
全く考えていなかった。自分にとって、葉月登場の3話目は挑戦だった。
と言うのも、

  • 物語の視点が1, 2話共に秋人からで、飯田編集人からも男の子目線でという指示※12
  • 百合では詩的なモノローグを結構頻繁に使っていたが、「そうしたモノローグを男の子で多用すると押し付けがましくなる懸念があるので、簡素にした方が良いかもしれない」という飯田編集人からのアドバイス
で『ディアティア』を描いていたので、3話目は視点も全く異なる人物(葉月)に変えて、モノローグの使用も従来の自分のスタイル寄りに戻しての執筆だった。


1冊目の「ディアティア」というタイトルは、かずまこを先生の発案。「愛しい涙」という意味も、英語でも日本語でも一文字違いで押印できている点も、美しい良いタイトル。以降の「マイディア」や「ダーリング」※13は、飯田編集人の発案。
ちなみに、「マイディア」というタイトルをかずまこを先生の(同人の)相方が初めて耳にした際、「このタイトル、つまり2人がベッドインするところまで読めるんだね!?」と言われて、嬉しかった。その答えをこの場でお伝えすることはできないが、今後も秋人と睦子の物語は続いていく。
ディアティア2 マイディア



続きのレポートその2―表紙や予告、執筆陣などなど、「楽園 Le Paradis」について―は、以下のリンクからでも飛べます。
[楽園] 表紙や予告、執筆陣などなど、「楽園 Le Paradis」について





※1

編集が複数人いる中での代表なら編集となるけれども、「楽園 Le Paradis」の担当編集は自分一人だけなので(飯田編集人)

※2

女性向け・但しBLではない(かずまこを先生)

※3

「メロディ」の編集長に任命された経緯も簡単にお話されていました。
尚、当時は
  • 白泉社の雑誌からは離れており、文庫を担当。
  • 桑田乃梨子先生、遠藤淑子先生、TONO先生等、飯田編集人が好きで文庫化されていない漫画家の作品を文庫化。
  • 多い月で5, 6冊、年間60-70冊を担当。
していたそうです。
当時は、白泉社から「メロディ」を預かっているという認識で、実際にそのように自分を紹介していた。編集長と言えど、あくまでも雑誌は「預かり物」とのこと。

※4

この辺りの経緯は、『純水アドレッセンス』あとがきの「載るまえのはなし」でも描かれています。

※5

『純水アドレッセンス』では、ラストから2番目に収録。

※6

但し、だから悪いという訳ではない(飯田編集人)

※7

例えば、中村明日美子先生や宇仁田ゆみ先生などなど(かずまこを先生)

※8

でも、その段階では影も形もなかった本ですよ(飯田編集人)

※9

例えば、中村明日美子先生、宇仁田ゆみ先生、二宮ひかる先生など(飯田編集人)

※10

実際にはもう少し具体的な例でした。

※11

後程、飯田編集人はサブキャラクターに関して「最近の漫画でサブキャラクターが沢山出てくることが多いように思う。サブキャラクターが多いこと自体は全く問題ないが、各キャラクターはしっかり役割を持っており、その役割を全うすべき」とも発言していた。

※12

主人公がどちらかハッキリさせるという意味で、確かにそう言った(飯田編集人)

※13

沢田研二は意識していない(飯田編集人)