無職よ、常に余裕を持って優雅たれ? - 「34歳無職さん」

私的かつ情けない事ながら、年明けから先週末まで忙殺されておりました。
その間は漫画からも殆ど離れてしまっていたのですが、自分にとって漫画は一番の趣味。
時間、精神、体力に余裕ができた時には、本当に少しの量でも貴重な癒しになっていました。
しかし、3月頭に解放されるまでは、むしろ絶対に読まないと決めていた作品があったのです。
34歳無職さん 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
その作品が、この「34歳無職さん」。
作者はささめきこと」でもお馴染みいけだたかし先生。
作者曰く、元々は『コミックフラッパー デジタル臨時増刊号』で何となく続いていた本作。
昨年末、「ささめきこと」が大団円を迎え完結したのを機に、『コミックフラッパー』本誌にて連載を開始。


内容は、そのタイトルの通り、34歳女性の無職の日々
取り立てて大きな事件などはなく、むしろ無職であるが故に一日の時間が余りまくる。
そんな一見するとウラヤマシイ(でも実際には堕落しそうな)日常生活が描かれています。


その内容上、自分にとって本作は『フラッパー』で気軽に楽しめる箸休め(?)的ポジション
あくまで自分の感覚ですが、『モーニング』における「う」(ラズウェル細木)に近いかもしれません。
う(1) (モーニングKC)
重厚・濃密な作品の中のワンクッション、楽しみと癒しを同時に得られる雑誌に欠かせない一作。
同時に一話一話は短め・内容も軽めなので、コミックスでまとめて一気に読むのも楽しみというもの。
という訳で、この「34歳無職さん」はコミックス発売も心待ちにしていた作品の一つでした。


しかし冒頭にも書いた通り、2/23に発売した本作を読んだのは今週になってから。
理由は簡単で、本作を忙殺されている時に読んでしまったら、もうそこから頑張れないと危惧していたからです。
それは、何にも追われる事のない怠惰な無職な日々に憧れてしまいそうという事だけではなく。
そんな日々を自分から選ぶという生き方が眩しくて、でも忙殺時には眩し過ぎるからと言うのもあります。
いけだたかし『34歳無職さん 1』メディアファクトリー, 2012, p.9

先月勤め先がなくなった
再就職先など気遣ってくれる口もないではないが
まあ色々思う所あって
一年間何もせずにいようと決めた
こんな事情により、無職さんは無職に。そう、ある意味では能動的な無職なのです。
「一般に働き盛りと言われる三十代半ば」と説明もされている通りで、彼女には一定以上の蓄えがあるはずです。


作中では無職故に節約を心掛けてはいますが、決して財政が火の車な貧しい生活ではありません。
思わず新しい掃除機を買ってみたり、友人との食事ではしっかり割り勘をしていたり。
更に金銭的余裕だけでなく、精神的余裕もあるように(自分には)思えます。
料理(果物含む)、掃除、洗濯(布団含む)…などなど、正直優雅です。


けれど、無職で独りであるが故の寂しさや虚しさ、居心地の悪さがない訳ではありません。
例えば陰鬱な雨の日、何となく物事が上手くいかず、けれど手持ち無沙汰な時。
ならば何もしないとばかりに、何もせずゴロゴロするを実行してみても心は落ち着かず休まらない。
いけだたかし『34歳無職さん 1』メディアファクトリー, 2012, p.71
…ゴロゴロくらい気楽にしようや
同じく雨が苦手で、休むのが下手くそ極まりない自分は、この場面に激しく同意しました。


また気の置けない友人との会話では、
無職な自分の事をカッコ悪いと思う本音を語ったり、
何となく感じる世間への申し訳なさを吐露したりもしています。
いけだたかし『34歳無職さん 1』メディアファクトリー, 2012, p.130
でも、その時のイタズラ小僧のような苦笑いも、自分からするとカッコイイと思えるのです。
そんなカッコイイようなカッコ悪いような、ポジティブ気味な34歳無職の日々。
『フラッパー』本誌でも、コミックスでも、違う気分で楽しめるお気に入りです。


ちなみに後書きにて、
・「34歳無職さん」は某お絵描き掲示板で描いていた一枚絵シリーズから誕生したという経緯
「もうちょっと知りたい人は『34歳 無職さん』でググると良いかもよ!(ネタバレ注意)」
といった事が書かれています。
『フラッパー』での連載は概ね元ネタ絵に基づいていると思われるので、気になる人はネタバレ覚悟でチェック。
しかも元ネタ絵の終盤がヒジョーに気になる所で終わっており、今後の連載も実に楽しみ。


ちなみにちなみに、冒頭で「ささめきこと」には少々触れましたが、
個人的にはデビュー作も収録されている短編集「プラトニック・ホーム」もオススメです。
プラトニック・ホーム―いけだたかし短編集 (MFコミックス)
日常や思い出の中に確かに在る、色々な想い。
その想いを見詰め直したり、切り取ったり、懐かしがったり。
全体的な雰囲気はやや仄暗いですが、言葉にし難い色々な想いの形が詰まっています。