好きだから?好きだけど?恋愛の嘘つき達!

突然ながら、日々の生活の中で、嘘をつく事は多いでしょうか?
嘘をつくのは悪い事とされますが、実際問題、全く嘘をつかない人はいないと思います。
理由や頻度は違えど、人間関係を維持して行く上で、嘘は必要不可欠ではないでしょうか?


ましてや、その人間関係が恋人ともなれば、嘘をつく事は更に複雑化するはずです。
自分のためだけでなく、相手のための想ってつく嘘・つかなければならない嘘もあるでしょう。
偽善かもしれませんが、相手を大切に思うからこその嘘も有り得ると思います。


同時に、不思議な事に、嘘をつく事が魅力に繋がる場合もあります。
また、嘘だと気付けない/嘘と分かっても抗えない魅力は、恋の駆け引きで一役買うかもしれません。
という訳で、今回は、恋愛における嘘つき達を蠱惑的に描いた作品を紹介します。

ライアー×ライアー」(金田一蓮十郎

ライアー×ライアー (1)(デザートKC)
まずは、『デザート』で連載中の「ライアー×ライアー」です。
金田一蓮十郎先生は、『ヤングガンガン』,『月刊少年ガンガン』,『コミック百合姫』,『アオハル』等、幅広く活躍を続けられています。
その中の一誌『ヤングガンガン』で連載中の「ニコイチ」を併せて読んでいると、今作に強烈な既視感を覚えるかもしれません。
何故なら、今作のメインキャラクター:高槻姉弟と「ニコイチ」の藤本姉弟は、初期状態では極めて似た関係性だからです。


一言で簡潔にまとめると、義理の弟が義理の姉に恋をするという夢とロマン溢れるラブコメ展開。
しかし、今作の弟:透が恋した相手は、姉:湊(大学生)であって姉ではない野口みな(女子高生)。
つまり、彼女の嘘は、自分を姉でない赤の他人と偽り、しかも女子高生と若作った事です。
女子高生への変身
こう書くと極悪かつ変態のようですが、この嘘の発端は、可愛らしい乙女心。
また、透の日頃のナチュラル女癖の悪さにも原因があるので、彼にも責任の一端がないとは言い切れません。


とにもかくにも、些細な偶然から始まってしまった湊×透×みなという三角関係?
湊の当初の狙い通り、透はみな一筋を貫き、女癖の悪さを解消して行きます。
一方、湊は姉目線では見られなかった透の新しい一面を知っていき、透に惹かれている自分に気付くのです。
押され気味女子高生(年齢詐称)
義理とは言え弟と思いつつも、好意を持つ相手を騙す事で良心の呵責に苛まれて行きます。
そんな時、湊には人生初のモテ期も訪れて、事態はより複雑に―――。


湊の恋の行方と透の恋の行方は、それぞれどうなって行くのか?
次巻は今年9月に発売予定との事で、余裕を持って気軽に既巻1冊を揃えられる所も魅力ではないかと思います。

「屋上姫」(TOBI

屋上姫 1 (フレックスコミックス)
次に、『FLEXCOMIXブラッド』で連載中のWEBコミック「屋上姫」です。
TOBI先生と言えば、代表作「眼鏡なカノジョ」や続巻「眼鏡とメイドの不文律」で、眼鏡のエロイ偉い人として名を馳せているはず。
同時に、『まんがタイムきららフォワード』で連載されていた「銘高祭!」で存分に描き切った通り、青春物の作者でもあると思うのです。
そんなTOBI先生の最新作は、嘘から始まり、嘘でしか成り立てない儚げな青春の恋模様


この春、晴れて高校入学を果たした黛 陽平(まゆずみ ようへい)。
腐れ縁の源条 信忠(げんじょう のぶただ)や伊集院 結子(いじゅういん ゆいこ)と、また代わり映えのない平凡な日々を3年間過ごすと思っていた陽平。
しかし、ある偶然によって、彼と“屋上姫”は意外な邂逅を果たす事になります。
陽平と“屋上姫”
“屋上姫”と呼ばれるのは、理事長の孫で、容姿端麗・成績優秀な生徒会長:霞上 澄花(かすがみ すみか)。
まるで本物の姫のように、眩しく凛々しく、男女だけでなく教師からも一目置かれる“屋上姫”。
そんな彼女と、信じられない事に、陽平は付き合う事になるけれど―――。


帯の「彼女は嘘をついている。」という言葉の通り、彼女の“好き”は偽りです。
しかし、それは年下の純朴な少年を誑かそうとする悪意ある物ではなく、自身の解放を願っての嘘。
独善的という指摘は拭い切れないかもしれませんが、その嘘は、彼女自身も容赦なく痛め付けます。
自分を蝕む嘘
そして、このまま嘘でしか成立しない関係を続ける限り、皆どうしたって幸せにはなれない。
かと言って、一度初めてしまった偽りの関係を終わらせる事も、痛みと悲しみを伴う。
嘘をつくのが悪い事とされる原因の一つは、この絶望的なまでの閉塞感にあるのだろうと、読者ながら胸が痛むのです。


そうは言っても続きが気になって堪らない今作は、第1巻の次の話が現在掲載中なので、この機会に最新話まで追い付くのもオススメです!

「回游の森」(灰原薬

回游の森 (Fx COMICS)
最後は、『マンガ・エロティクス・エフ』で一昨年完結を迎えた「回游の森」です。
今作は、性別も年齢も職業も異なる人達の「疚しさ」(やましさ)を軸にした群像劇
私達が日々感じる後ろめたさ・もどかしさが、それぞれの人物の生活を通じて、様々な角度から描かれて行きます。


そして、多くの“疚しさ”は、嘘に繋がります。
例えば、それは自分に対するゴマカシであったり、好きな相手に対する偽りであったり。
“疚しさ”の狭間で…
暗く深い森に喩えられる“疚しさ”は、自分自身の事なのに、踏み込み過ぎてはイケナイ所。
迷い込まないためには、日常生活に留まる必要があって、どうしても嘘が漏れてしまう。


今作の素晴らしいと思う点の一つが、“疚しさ”を他人が窺い知るのは極めて難しいと感じられる点です。
各章の“疚しさ”を抱える主役の多くが、他の章で脇役として登場するのですが、脇役の時の彼等から“疚しさ”を見出す事は出来ません。
秘める“疚しさ”
往々にして、“疚しさ”という感情は自分の中に秘めて置くモノで、他人には見せられない。
でも、その“疚しさ”は、他人に見せない自分の深い所と繋がっていて、自分だけが知る本当でもある。
だからこそ、「後ろめたい」と当の本人は一層感じつつも、“疚しさ”を抱く事をやめられないのだと思います。



彼女達はいずれも、恋愛において、嘘をつかざる得ない状況に陥っています。
その結果、相手だけでなく自分自身をも苦しめ、いずれ悲しい想いをする気配も濃厚です。
それでも嘘をつかなければならない所に、恋愛の難しさが垣間見える気がします。


それは現実でも同様で、私達も恋愛において、嘘をつく事は避けられないはずです。
その嘘が上手く機能する事もあれば、思わぬ不幸を招いてしまう事もあります。
しかし、予想外・想像以上のリスクを重々承知で、私達は嘘から離れられない生き物だと思うのです。


そして、嘘を全くつかずに生きて行く事が不可能ならば、嘘との付き合い方も大切でしょう。
嘘をつく事による苦しみ,悲しみ,疚しさ等は、以前更新した人間らしい残念さ・憎めないカッコ悪さに繋がるように感じられます。
[水上悟志][緑のルーペ][やまむらはじめ] 残念だから人間らしい!憎めないカッコ悪い奴等!
同時に、彼女達も経験している嘘に伴う良心の呵責は、人生経験の一つとも思えるのです。
恋愛で嘘をつくという人生経験を経て、彼女達と周囲の人々が、また一歩成長出来る事を願っています。
尚、甘いと言われようとも、恋愛の嘘つき達に可能な限りのハッピーエンドも願ってしまうのでした。