愛と敬意と幸福の結晶!コミカライズ作品のススメ!

突然ながら、メディアミックスに纏わる暗い思い出はありませんか?
知名度が上がらず、存在が忘れられているドラマCD化。
原作終了に伴い、中途半端な所で終了を迎えるコミカライズ化。
原作に追い付いてしまい、望ましくないオリジナル展開へと舵を切るアニメ化。


メディアミックスが豊富な昨今、こういった悲しいエピソードも決して少なくないはずです。
他媒体(メディア)は別物と割り切れる人・自分にとっての良い媒体のみを楽しめる人もいるでしょう。
一方で、自分の好きな作品のメディアミックスが沈んでいくのを見ると、やりきれない気持ちになる人もいると思います。


しかし、光と闇は表裏一体で、影ある所に光ありです。
メディアミックスの歴史は、絶望や悲劇の連鎖だけではないと断言出来ます。
個人差はあれど、良いメディアミックスは原作との相乗効果を発揮したり、時に原作を超えたりする程。
こんな事を、いよいよ『アフタヌーン』で完結を迎える「秒速5センチメートル」(清家雪子×新海誠)を読んでいて、ふと思いました。
秒速5センチメートル(1) (アフタヌーンKC)
という訳で、今回は、個人的に素晴らしいと感じたコミカライズ作品達を紹介します!

ほしのこえ」(佐原ミズ×新海誠

ほしのこえ (アフタヌーンKC)
まずは、新海誠監督作品の流れを引き継ぎ、「ほしのこえ」です。
漫画担当は、「マイガール」や「バス走る。」でお馴染みの佐原ミズ先生。
淡く、優しく、けれど儚い絵の雰囲気は、新海誠作品との親和性が極めて高いと感じます。


一巻完結の傑作と言って過言ではない今作。
その白眉は、やはり、ラストの微妙な差異だと思うのです。
原作とラストが異なると言うよりは、ラストの解釈が異なっています。
「私達は」「ここにいるよ……」
宇宙と地上の距離、9年間の時間差、決して噛み合う事のない互いの世界。
その圧倒的な断絶の中では、一方通行の想いは断たれてしまうかもしれません。
しかし、それでも引き裂かれる事のない二人の想いと希望が、このラストには込められているはずです。

魔法少女まどかマギカ」(ハノカゲ×Magica Quartet)

魔法少女まどか☆マギカ (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
続いて、アニメ原作繋がりで、「魔法少女まどかマギカ」です。
アニメ放送の一クールに合わせて、雑誌連載なしで3ヶ月連続刊行の今作。
この革新的な発行スケジュールに加えて、もう一点、目を惹かれた点がありました。


それは、コミカライズ作品として、非常に手堅く良い出来だと感じた事です。
往々にして、メディアミックス作品は、成功と失敗の振れ幅が大きいと思うのです。
そのメディアミックスにおいて、今作が持つ揺るがぬ堅実さは、非常に優秀な条件のはず。
“正義の味方”の代償
勿論、コミカライズに辺って、今作ならではの特長も存在します。
上のコマのような、原作視聴時にもっと知りたかった所を、より詳細に描写したり。
媒体の差を意識して、アクションの代わりに、心理描写を増やしたり。
これらの特長により、特に第2巻では、更なる絶望を感じる事が出来ると思います。

真月譚月姫」(佐々木少年×TYPE-MOON

真月譚月姫 10 (電撃コミックス)
さて、原作の媒体をアニメからノベルゲームへ変えて、「真月譚月姫」です。
電撃大王』で7年間に渡って連載され、昨年、遂に堂々の完結を迎えた今作。
収録話数的に全9巻かと思われていたら、急遽、単行本1冊分プラスの全10巻へ。
その理由は「調子にのって書き足しまくったら一冊におさまらなく分冊」という愛溢れる物でした。


今作を的確に表現する言葉の一つは、間違いなく「作者の愛」だと思います。
原作の複数のルートの魅力的な融合から原作後に展開されたファンアイテムでの補足設定の自然な盛り込みまで。
それでいて、より複雑になっているはずの物語の内容は分かりやすく、戦闘描写もお見事。
佐々木少年先生へ贈りたい言葉
更には、原作のおまけ要素も要所要所に挟み、最終10巻の原作ファンが夢見たであろう描き下ろしは50ページ以上。
口でまとめるのは簡単ですが、7年間という長い年月で、これら全てをやり切る事の難しさは想像に難くありません。
原作シナリオライター奈須きのこ先生が、続編エピローグ用のキャッチコピーを捧げた事も納得。
漫画担当の佐々木少年先生の「月姫」愛によって成された奇跡・至福のコミカライズだと思います。

とある科学の超電磁砲」(冬木基×鎌池和馬

とある科学の超電磁砲 6―とある魔術の禁書目録外伝 (電撃コミックス)
最後は、ライトノベル原作で、『電撃大王』にて連載中の「とある科学の超電磁砲」です。
原作「とある魔術の禁書目録」のコミカライズ且つスピンオフであり、アニメ化も果たした今作。
大元の原作ではヒロインの御坂美琴を軸にして、学園都市の科学サイドを描いています。
2007年初頭の連載開始で一目惚れして、その後も回を追う毎に惹かれ続けたのも、今では懐かしい思い出です。


今作最大の長所を挙げるならば、個人的には「別の視点」になります。
上条当麻の物語が始まる7/20より少し前、7/16から幕を開ける御坂美琴の物語。
そこから、上条当麻以外の視点で、広く深く複雑な学園都市での日々を眺められるのです。
学園都市・第三位 VS 第四位
それは、時に友達との平穏な日常であり、時に学園都市を救う英雄譚でもあります。
裏を返せば、日常を守るための個人個人の闘い・英雄であるための困難や代償を描いているとも言え、その辺りの描写については以前の更新で触れました。
[今井哲也][冬木基×鎌池和馬] 誰もが“諦めず”に舞台に立ち続けられるのか? - 「ハックス!」&「とある科学の超電磁砲」
加えて、原作では見られないドリームマッチも実現という嬉しい展開もあり、まさに至れり尽くせりです。


それでは、原作でも書かれている内容ならば、ただの原作再現になってしまうのでしょうか?
個人的には、そんな事は全くなく、この場合も「別の視点」が生きてきます。
美琴視点で物語が描かれる事で、美琴の感情や光景がダイレクトに感じられ、共通の内容が違った顔を見せます。
美琴を通して見る美琴
ちなみに、先月の『電撃大王』にて、その“原作と共通する内容”の妹達(シスターズ)編が完結。
次の単行本に収録される残りは僅か2話(正確には3話)ですが、それぞれクライマックスとエピローグ。
熱く燃えるようなカッコ良さ・微笑んだ後のニヤニヤ共に半端ないので、単行本派の人もお楽しみに!



今回のテーマを書くに当たって、当初の予想よりも遥かに、取り上げたい作品が多かったです。
そのため、いつもより作品数が若干多く、些か駆け足での紹介になってしまったかもしれません。
しかし、言い換えると、それだけ私にとって良いコミカライズ作品が多かったという事でもあります。


メディアミックスの一つという性質上、コミカライズ作品は原作準拠、ともすればただの再現になってしまうはずです。
けれど、漫画担当者の愛と敬意により、原作の補完,相乗効果,ファンサービス等を生み出せる作品は少なくありません。
その事実は、原作ファンにとっても、新規ファンにとっても、漫画好きにとっても幸福な事だと思います。


同時に、コミカライズがメディアミックスの一つであるという事実が、問題の種である事も否定は出来ません。
冒頭で挙げた暗い思い出の例も、こういった原作の都合で発生したと考えられるパターンが多いです。
また、原作に準ずる以上、刊行スケジュールも原作第一で整えられる必要があるでしょう。
残念な事に「まどマギ最新3巻が延期になったのは、そういった事情があると思われます。


最後に、私が思う良いコミカライズの条件の一つとして、原作を知らずに読んでも十分楽しめるという事があります。
つまり、コミカライズとしても見事であり、一つの漫画作品としても十二分に面白いという事です。
この辺りは、私が明るくないラノベや小説の分野からのコミカライズ特集で上手く紹介出来ると思うので、そう遠くない内に更新したいと考えています!