罪を背負うから美しい!ファム・ファタール系ヒロイン!

つい先日、Landreaall」(おがきちか最新20巻が発売となりました。
Landreaall 20巻 限定版 (ZERO-SUMコミックス)
Landreaall」(ランドリオール・略してランドリとも)は、『コミックZERO-SUM』で連載中のファンタジー作品。
緻密な各キャラクターや世界観、細やかな伏線の数々が織り成す物語は重厚濃密。
一度ハマるとグイグイと惹き込まれ、巻を追う事に深まる物語からは目が離せません。


祝20巻では、今まで点で明かされてきていた情報が一本の線で繋がった怒涛の展開もあり、興奮も一入。
その中で、ヒロイン枠と思われる●1ミステリアスな女性ディア(メイアンディア)についても、色々と見えてきました。
そこにsoorce氏の興味深い予想が、目に入って来たのです。

soorce ランドリオール20巻、限定版の方買えた。この巻までの話読むと、大老(ファラオン卿)が前王を狂わせたとも読める。メイアンディアの家系の「他人を壊せる」天恵と「今までのままでは王になれなかった」大老の野望との組み合わせがあれを作った可能性が。 link
まず、この可能性が考えられるのは同意です。
元々ディアが大老や円卓、議会に関わる重要機密に関わっていた様子は以前も描かれていました。
また、彼女の(家系の)天恵●2が人の記憶に関係し、他人を壊せる程に強力な事も示唆されています。
上記の野望を仮定すると、王を失墜させ自らの地位を確固たるものにする方法としては、十分にアリだと思います。


もしそうだとすると、ディアは少なくとも●32つの罪を背負っている可能性も出てきます。
一つは、前王を狂わせた(事に加担した)と思われる罪。●4
もう一つは、大老(将来の王有力者)の婚約者であるために、主人公を苦しめ続けるであろう罪。


ここまで考えた時、今までヒロイン(?)として可愛らしく見てきたメイアンディアに脳内で新たな魅力が追加されました。
可愛らしいヒロインの魅力も然る事ながら、麗しいファム・ファタールとしての魅力です。


そもそも「ファム・ファタール」とは、直訳すると「運命の女性」
但し実際には、最終的に男性に破滅をもたらす魔性の女性、の意味合いがしばしば含まれます。
ファム・ファタール - Wikipedia
その特性から、所謂バッドエンドや後味の悪い物語、もつれたり破綻へ向かったりする人間関係の中に存在する事の多いファム・ファタール
すると、そういったものが大好きな自分は当然ながら、そんなファム・ファタール系ヒロインも大好物な訳です。


例えば、個人的心の名作天使のいない12月やエロゲの世界に帰ってくるくらいにドハマリしたWHITE ALBUM2
どちらのLeaf作品にも、ファム・ファタール系(サブ)ヒロインが存在します。
天使のいない12月 DVD-ROM版WHITE ALBUM2(「introductory chapter」+「closing chapter」セット版)
極々簡単にまとめると、どちらのサブヒロインも(己の目的のために)主人公を利用します。
片や周到深く準備を重ね、意識的に、けれど主として短期間で。
片や偶然、意識的の皮をかぶった無意識で、永遠に囚えて離さない。
そうした違いはあれど、いずれの場合も主人公やその周囲に、恐らく致命的な不幸●5を招く結果となっているはずです。


それでも、サブヒロインという事もあり、この2作品はファム・ファタールと何等かの関係性が続いていく確率も高いです。●6
しかし、世の中には台風のように突然現れ、幸福と破滅を呼んで跡形もなく消えていくファム・ファタールも存在します。
そんなヒロインと彼女を取り巻く(巻き込まれる)人達を描いているのが「蜜ノ味」(元町夏央です。
蜜ノ味 (Feelコミックス)
「あねおと」等々の過去作品でも感じられた乾いた空気の中で、幸福も破滅も淡々と綴られていく。
本人の細やかな願いが生み出した、周囲からは得体の知れないヒロインの歩みには、ファム・ファタールかくあるべしとウットリします。


そもそも、人は他人と繋がり生きていく上で何らかの罪を重ねていく事は避けられないと思うのです。
罪と言うと重苦しい響きですが、例えば若さ故の過ち・後悔して止まない失敗は多くの人が抱えているものかなと。
大小・意識無意識の差はあれど、罪は皆に等しくあるもので、珍しいものではない。
なればこそ、鮮烈な罪を自らの手で下し、背負っていく人間には憧れます。


そして、彼女達が結果的に悪女なのは否定できませんが、物語途中までは男性側も幸せを存分に得ています。
ただ楽しい嬉しいと言う気持ちだけに留まらず、物質的・肉体的な恩恵を得ている場合も十分あるでしょう。
その幸せは彼女達と出逢わなければ一片も得る事なく、むしろ彼女達無しでは無味乾燥とした日々が続くだけだったかもしれない。
もっと言ってしまえば、彼女達と出逢わなかった場合にも同じくらい、或いはそれ以上に不幸になっていたかもしれません。


つまり、ファム・ファタールは必ずしも不幸を招く存在ではなく、むしろ一定期間は無上の幸福も約束される。
そう考えると、期間限定で条件付きとは言えど、彼女達は幸福の女神でもあるのではないかなと。
不幸も幸福も生み出す事のできる絶対的な力強さは、純粋に惹かれる所です。


ちなみに、以前も「女性らしさ」という切り口で、ファム・ファタールには触れています。
[雁須磨子][シギサワカヤ][ヤマシタトモコ] 男性にとって永遠の謎!女性らしさって何だろう?
男性版で「オム・ファタール」という言葉もありますが、もしかしたら異なる存在だからこそ惹かれているのかもしれません。
しかも異なる上に、奥深くまで見えない謎多き存在からこそ、たとえ破滅を呼ぶと分かっていても相手に溺れて抜け出せない。
すると運命の相手に縋る様は、実は凄く人間臭い、愛おしい関係性(の一つの形)のような気もしてきます。


今後とも、ファム・ファタールに出逢い、心を奪われる事を願って止みません。
余談ながら、その物ズバリのタイトルファムファタル〜運命の女〜」(シギサワカヤという作品も存在します。
ファムファタル~運命の女 1 (電撃コミックス)
上記の記事でも触れているのですが、こうして見てみるとこのファム・ファタールは優しい気がしないでも……ない?

●1
物語の構造上、ディアが所謂ヒロイン枠/候補と明言するのは難しい気がするので、ちょっと弱めな表現で。


●2
所謂、固有スキルや固有能力。
但し、その家に生まれたからといって必ず発現するものではなく、強さも個人によった……はず。


●3
細かく考えていけば、前王が狂気に飲まれた事による被害はマクロ・ミクロ両方のレベルで相当多いので、2つでは全く足りないかとも思います。


●4
ちなみにディア本人ではなく、ディアの家系が加担していたとしても、その過去を知りつつ生きる事はディアを苛むのではないかなと。


●5
或いは、見方によっては転機や解放、救済とも言えると思います。


●6
ヒロインとしてのルートとサブキャラとしてのルートでも異なる上、ヒロインとしてのルートでも分岐する場合もあり、彼女達との関係性は複数存在します。