残念だから人間らしい!憎めないカッコ悪い奴等!

突然ながら、漫画の魅力的なキャラクター達を、どこか遠くに感じた経験はないでしょうか?
例えば、非凡な才能を持った超人。
或いは、努力で天才に追い付き超える凡人。
または、圧倒的なカリスマを持つ悪役。


その中で考えるならば、「努力で天才に追い付き超える凡人」が、一番私達に近いはずです。
しかし、現実には、凡人の誰しもが努力出来る訳ではないでしょう。
何かに努力出来る事・熱心に打ち込める事も、一種の才能だと考える人もいると思います。


では、私達に近い・私達が共感出来る要素と言うのは、どんな物があるでしょう?
その答えの一つが、人間らしい残念な部分カッコ悪い部分だと思うのです。
という訳で、今回は、どこか共感出来る(と思われる)カッコ悪い奴等を残念度に応じて先鋒,中堅,大将で紹介します。

先鋒:茜 太陽 from 「惑星のさみだれ」(水上悟志

惑星のさみだれ 7 (ヤングキングコミックス)
先鋒は、昨年完結した傑作漫画「惑星のさみだれ」より太陽君。
人間賛歌を高らかに謳い上げた(と思う)今作ですが、人間である以上、正の面と負の面は表裏一体。
負があるからこそ正があるのは勿論、負から正に転じる事が成長の一過程とも考えられます。


この表紙前面の太陽という子は、不幸な家庭の事情もあり、非常に危うい空っぽな存在でした。
世界に絶望仕掛けており、毎朝、世界の終焉を何となく祈る。
他力本願の地球破壊
しかし、「祈る」という言葉の通り他人任せで、状況を変えるために何もしない。
生きる事は辛いけれど、死ぬ勇気もなく、ただただ空虚な日々を過ごす。


彼はまだ小学生なので、歳相応の子供らしい考え方にも思えます。
この後、彼は大人の背中を見て大きく成長して行く訳ですが、それは以下の感想にて。
[水上悟志] 太陽の「宿題」と風巻さんの「笑顔」 - 「惑星のさみだれ」
[水上悟志] 未来へと相変わらず続いていく“人間”達の物語 - 「惑星のさみだれ」
ともあれ、彼の成長から感じられるカッコ良さは、初期の残念さがあればこそと言う所もあるでしょう。

中堅:イチナ君 from 「イマコシステム」(緑のルーペ

イマコシステム (TENMAコミックス)
中堅は、三が日の2010年成年漫画ベスト5でも取り上げた「イマコシステム」よりイチナ君。
[成年漫画] 一年の計は三が日にあり!2010年成年漫画ベスト5+α!(リンク先R18)
主人公にして、ネガティブ×妄想癖×ヘタレという極悪極まりない残念さを有しています。
更に、彼の誇大妄想が思わぬ悲劇の連鎖を生んで行くとなれば、まさに残念 of 残念
けれども、彼の残念さには、どこか共感できる所があるとも思うのです。


居心地の良い、同時に都合の良い関係に甘えて、勇気を出せない・行動を起こせない。
そこから抜け出す事など到底出来ず、ただズルズルと問題や決断を先延ばしにする。
一番可愛いのは自分で、今の自分が楽しければ、他のコトなんてどうでも良い。
でも、自分が傷つくのは怖くて堪らないから、実は大好きな彼女に対してさえ懐疑心は止まらない。
ヘラヘラ笑って先延ばし
その結果、こうやってヘラヘラと笑って、面倒な何もかもをやり過ごす。


書きだしてみると、やはり残念 of 残念ですが、自分を省みた時に何も痛みを感じなかったでしょうか?
彼の残念さは、人間であれば、多かれ少なかれ持つ事を避けられない物だと思います。
今回のタイトルは「憎めないカッコ悪い奴等」ですが、イチカ君だけは憎まれても仕方ない存在かもしれません。
ただ、そうだとしても、彼の残念さ(の一部)を心のどこかで分かってしまう人は少なくないと思うのです。

大将:下山 from 「神様ドォルズ」(やまむらはじめ

神様ドォルズ 8 (サンデーGXコミックス)
今回の特集が“人間の屑”特集ならば、大将はイチカ君だったと思います。
しかし、今回は“残念”特集。なればこそ、栄光の大将の座は下山君の物なのです!


まず、「下山って誰?」と思った人が大多数だと思うので、少し解説。
下山君は、空守村出身(匡平・阿幾の元同期)で、同じく村出身の政治家:平城毅の秘書です。
村のシステムや隻として敬われる匡平・阿幾に、劣等感を募らせ続けています。
阿幾には名前を忘れられており、一介の大学生から「三下」・「役立たず」呼ばわりされる始末。
この初期設定の時点で、既に残念さが拭いきれません。


第6巻では、その拗らせた劣等感が暴走して、囚われの日々野さんを襲おうとするも失敗。
しかも、メタルヘッドのドライバーで頭を殴打されるオマケ付き。
昂ぶりが鎮まらんのだ
私には、下山君がベッドでの本番にコダワルあまり、(彼にとって)千載一遇のチャンスを逃したようにしか見えませんでした…。


主人公の匡平が珍しくカッコイイ最新8巻でも、僅かに登場した彼は頭を抱えるばかり。
破壊願望と快楽主義を併せ持つ大学生の久羽子に完全敗北を喫し、自らを取り巻く世界に絶望。
大学生に完敗する政治家秘書
尚、彼女と特にフラグが立つ雰囲気もなく、幸せになれる道も見えていません。
サンデーGX』最新号では今後も登場する気配さえなく、残念王の名を欲しいままにする下山君の明日はどっちだ…。



ここまで3人の憎めないカッコ悪い奴等を紹介して来ましたが、如何だったでしょうか?
彼等の残念さを見て、怒りや嫌悪感を持つ人,反面教師にしようと考える人,自分はまだ大丈夫と安心した人と、色々な反応があると思います。


ちなみに、取り上げた作品の一つ「イマコシステム」のラスト(後日談除く)は、以下の言葉(一部抜粋)と共に締め括られます。

誤解も一緒
早とちりも一緒

期待も一緒
心配も一緒

そしてそれを
互いに強がって
隠すんだ

多分そんな
調子で

疑ったり
信じたりを

ずっと騙し騙し
やっていくんだ

当然ながら、この言葉は、物語を締め括るに相応しい大きな意味を持っています。
でも、それ以外に、残念でカッコ悪い私達には最上級の優しい(或いは許しの)言葉として聞こえるとも思うのです。


人間である以上、残念な所もカッコ悪い所もあって、たとえ嫌でも全部は捨てられない。
ならば、克服できる所は克服して、そうでない物は妥協したり時に気付かない振りをしたり。
きっと皆がそうやって、カッコ悪い自分を抱えつつ過ごしている。
そんな残念かもしれない生き方が、また人間らしくて、私には眩しく感じられます。


一つ確かなのは、このような人間らしい残念さ・憎めないカッコ悪さを見事に描く事が、作品の大きな魅力となる事だと思います。
それと、ベッドでの本番にコダワリ過ぎるのは良くないという事。
未来を手に入れた太陽君・遅くなった誓いの言葉を口にしたイチナ君に続いて、下山君にそれなりの幸せが訪れる事を願っています。