変わらないひだまりの家で、変わり向かい合っていく“取り残された”二人 - 「sunny」

単刀直入に切り出すと、10/25に発売した「sunny」(今村陽子)が本当に素晴らしかった。
帯の「サラリーマン×女子高生3人ひとつ屋根の下」という謳い文句の通り、胸暖まるホームドラマとしても良作。
が、それ以上に、この作品はハルとあきらの二人が変わり向かい合っていく物語なんじゃないかなぁと思った。
と言う訳で、今回は、ハルとあきらに焦点を当てた「sunny」の話。
sunny (ヤングキングコミックス)
全1巻、僅か7話で完結している本作だけれど、とても良くまとまっていると思う。
特に、ハルとあきらをメインに据えて読んで行くと、過去と現在&一緒に暮らす4人の関係が一本の線でピンと繋がる。
特筆すべきはある過去と似ている、けれど異なる現在という対照的な演出。


例えば、あきらの保護者に指名され、紆余曲折あって女子高生3人の面倒を見る事になったハル。
その状況は、かつて学生だったハルと義姉(=あきらの母親)の面倒を見てくれたハルの兄貴(=あきらの父親)と重なる。


例えば、第2話で突然泣き崩れてしまったあきらを、自然と優しく落ち着かせるハル。
その仕草から掛ける言葉まで全て、かつて兄貴が泣き崩れたハルにしてくれた通り。


そして、一番の例は、ハルと義姉・ハルとあきらが出逢う場面。
ハルと義姉の邂逅
ハルとあきらの邂逅
全裸と体つきを除けば、何もかも同じ。
同じ家だから、二人が親子だから偶然同じ状況が生まれたと言う事もできると思う。
ただ、その一致は、偶然と言うにはあまりに似すぎていて。
あきらと再会した瞬間のハルの驚愕した表情は、間違いなく既視感とフラッシュバックが原因のはず。


そもそも、どうしてあきらはハルを保護者に指名したのか、第一話で彼女は答えた。

なんで私がハルと暮らしたかったかというとね…

ママの好きなひとをみてみたかったんだ

笑顔でこう言ったあきらだが、その笑顔は形式的で、どこか冷たい雰囲気が漂う。
そして、その直後の二人の素顔は、腹を探り合う敵のようでさえある。
垣間見えた素顔
再終話、絹子と郁(=一緒に暮らしていた女子高生2人)が家を離れて行き、また二人きりとなったハルとあきら。
そこで遂に、あきらがハルと暮らす事を望んだ本当の理由が、懺悔の言葉と共に語られる。

――なんで私がハルと暮らしたかったかというとね

ハルとママの関係のせいで家族がおかしくなったんだって

押しつけてしまいたかったからなの…

……そうすれば

私の罪も少しは軽くなるかなぁと思って…

たった一人で(彼女にとっての)罪を背負い、楽しい日々の中、その呵責により一層苛まれ続けて来た少女の告白。
彼女の心に刻まれた傷跡は、ハル一人で取り除いてあげられるモノではない。
互いに一人では癒す事のできない過去を抱え、ひだまりの家に取り残されていた二人。
そんな二人なら、そんな二人だからこそ、一緒に背負って暮らしていける。

―――一緒に

背負ってやるから…

―――気がついたらそういっていた

その決意の言葉と共にあきらを抱きしめた後、ハルは再びあきらと一緒に暮らし始める。


初めて一緒に暮らす事になった第1話、18年振りに実家へ戻って来させられたハルは、こう独白していた。

…案外変わらないもんなんだな

中に住む人間だけが変わっていく

取り残されたのは俺と…―――

この独白の直後、ハルはあきらと再会する。
ハルにとっては、兄と自分が住んでいた思い出が眠る実家。
あきらにとっては、一家で住んでいた思い出が眠る自分の家。
変わらない特別な場所の中で、自分とあきらだけが取り残されてしまったのだと、彼は一人思っていた。
そして、また一緒に暮らし始めた最終話、ハルの独白は似ているけれど大きく変わった。

取り残されたふたりで暮らしていく

やさしい

ひだまりの家…――

第一話では「取り残されたのは俺と…」に対して、最終話では「取り残されたふたり」
まず初めに自分自身を指して、兄夫婦の子供でしかなかったあきらの名を挙げもしなかった、第1話のハル。
それが、最終話では、気がつく所か無意識にふたりを指している。


ハルとあきらの二人が、過去に囚われ、取り残されたという事実は、今後も変わる事はない。
でも、変わらないひだまりの家で、少しずつ変わっていったハルとあきら。
二人が向かい合って、笑顔で語り合うラストは本当に印象深い。
心からの笑顔
進む者も、留まる者も、等しく暖かく包みこむ変わらないひだまりの家。
本作「sunny」は、そのひだまりの家で一緒にゆっくり進む事を選んだ二人が、心から笑い合える新しい家族になれた物語ではと思ったのでした。