自分を変えるために、思い切って一歩踏み出す勇気、超えていく圧倒的格差 - 「ビリオネアガール」

隔月発売の『good!アフタヌーン』で読む度に単行本化を待ちわび、遂に先日、第一巻が発売!
と言う訳で、今回は「ビリオネアガール」の話。
ビリオネアガール(1) (アフタヌーンKC)
物語は、平凡な大学生:高遠けいが、担当教授の姪:藤岡ゆかりの家庭教師を依頼される所から幕を開ける。
法外な報酬と条件を訝しんでいた恵だったが、実は、紫は莫大な資産を持つ凄腕のデイトレーダーで―――。


漫画担当は、「ハニカム」や「BLOOD+」の桂明日香
原作担当は、「狼と香辛料」の支倉凍砂
支倉氏は、連載開始時に「舞台は現代日本ですんで、『狼』ではできなかったことを山ほどぶちこむ所存です。」と書いており、選んだテーマは“株”。
とは言っても、お金の重要性や株の功罪ではなく、金銭的格差や異なる価値観を超えて結ばれる絆に焦点が当てられているように思う。


その若さで圧倒的な成功を収め続けている紫だが、その胸の内は非常に複雑。
保護者のおじさんが「あの年であの額を自力で稼いだんだ」「大した娘さ」と言うように、紫の成功は決して負い目に感じる事ではないはず。
自他共に認める引き篭もりやギャンブラー的側面があろうとも、それ等が全てではない上、彼女の実力や強運は揺るがない。
しかし、巨額の富を持つ者への羨望・嫉妬は勿論、持つ者の孤立・世間との乖離も彼女を遥かに萎縮させる。
持つ者故の孤独
だからこそ、彼女は自分を変えるために、勇気を出して、誰かと共に新しい世界へ進む事を選んだ。
おじさんは、紫の事をこうも評している。

紫くんは賢く強い

それでも若い
圧倒的に経験が足りない

些細な助けさえあれば乗り越えられる波に永久に足をすくわれてしまうかもしれない

賢く強い彼女は、新しい世界に一歩一歩踏み出し、新しい経験を積んでいく。


一方で、変わっているのは、紫だけではない。
恵もまた、紫のために、不器用ながら積極的に行動するようになっていく。
その姿は、彼の友人を驚かせ、家庭教師を依頼したおじさんを少々焦らせた。

…こういうのに興味を持つより珍しいと思ってさ

恵が誰かのために能動的に動くの初めて見たよ

冷静沈着な友人:たすくがそう口にした程、恵の変化も著しい。


言わずもがな、持つ者:紫に見える世界・持たざる者:恵に見える世界は全く異なる
象徴的なのが、第2話でのやり取り。
異なる世界に住む二人

夢中になれる何かがあって
一生遊べるだけの財産もある

言う事無しじゃないですか

この恵の台詞は、嫌味や皮肉では全くなく、むしろ紫を認めて誉めている。
平凡な日々を過ごす無趣味な一般人の恵からすれば、紫の姿は素直に憧れ。
でも、恵の真意は恐らく紫に届いておらず、彼女に虚しさを湧き上がらせただけ。
この時点で、二人は、お互いが見ている世界(の価値観)を覗き込む事さえできない。


それでも、二人は互いに一歩踏み出し、徐々に歩み寄っていく。
漠然と自分を変えたいと願い、変わりつつある紫。
紫の力になりたいと思い、自分も変わりつつある恵。
今はまだ、誰のために変わっているのかという方向はバラバラ。
ただ、この笑顔を見ると、異なる世界を見る二人が、その圧倒的な格差を埋める日もそう遠くないように思えて来る。
お金が結ぶ縁
同時に、紫の言う通り、お金って凄く不思議な存在で。
かつては恵を困らせ、紫を孤独で蝕んだお金が、今は二人の縁を繋いでいる。
そして何より、同作者の「狼と香辛料」のホロ&ロレンス同様、お金で切れる事がない関係って素敵だなと思えるのでした。