声で繋がる!音で広がる!ナヲコ作品の世界!

今まで拙ブログでは、1つのテーマを軸に、3作品を紹介・感想を書いて来ました。
今回の記事では、少し趣向を変えて、1人の漫画家から3作品を挙げてみたいと思います。
テーマを1つ据えた時に、同一の作家ならではの多種多様な描き方が見られるのではないかと。


そして、今回のテーマは、“声”“音”です。
より具体的に言うと、声と音によって広がり繋がる自分の周囲の世界となります。
こう書くと何やら難しそうなイメージを持つかもしれませんが、最近の有名所で「けいおん!」はどうでしょう?
けいおん!!(第2期) 9 (Blu-ray 初回限定生産) [Blu-ray]
原作は勿論の事、楽曲や音の演出が加わったアニメ版では特に、“音”によって唯達の世界が広がっていたと思います。


また、新進気鋭の作品では、『ゲッサン』で連載中の「ハレルヤオーバードライブ!」(高田康太郎)を挙げたいです。
ハレルヤオーバードライブ! 3 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
「ハレルヤオーバードライブ!」4巻感想殴り書き〜自分の好きを諦めるな!〜 (from たまごまごごはん)
ティアドライブ本格始動。期待と不安入り混じる初ライブ! 「ハレルヤオーバードライブ!」4巻 (from 正直どうでもいい)
リンク先の各感想でも書かれている通り、着実に加速し続けて来た今作は最新4巻で最高潮の節目に!
この作品もまた、小雨達の世界が、“音”によって開かれ広がって行っている物語と言えるでしょう。
この声と音と自分の周囲の世界を描き続けているように思えるのが、今回紹介するナヲコ先生です。

「voiceful」

voiceful (IDコミックス 百合姫コミックス)
まずは、『百合姉妹』と『コミック百合姫』で連載されていた「voiceful」です。
日本語に訳すと「声が響き渡る」という意味のタイトル通り、今作では様々な“声”が重なり響き合います。
その中で、声は自分の想いを他人に伝える媒体であると同時に、自分の存在を示す手段でもあると感じるのです。


今作の主役は、保健室登校の少女:かなえとインターネット・アーティスト:ヒナ。
この紹介ではマイナスのイメージが感じられるかもしれませんが、むしろ2人とも状況は上昇傾向にあります。
そして、それぞれが上手く行っているキッカケが“声”です。
重なりあう“声”
かなえは、ネットで聴いたヒナの歌声を聴く事で、少しずつ積極的になって保健室登校にまで回復。
ヒナも、ネットを通じて歌う事を通して、廃人同然の人生から「歌姫」とまで称されるようになっています。
しかし、緩やかに変わっている彼女達に対して、現実は更なる変化を求めて立ち塞がるのです。


自分の精一杯を上回る速度での変化を求められ、自分の中にある気持ちさえ上手く整理出来ない。
そんな状態では、当然、他人と上手く接する事が出来ずに周囲との関係も朧気で希薄になってしまう。
自分はどうなりたいのか?誰に“声”を届けたいのか?
届けたい“声”
その答えも、やはり“声”によって、見えて来る事となります。
誰かに伝えたい想いは、声に乗せて届けなければ伝わらない。
声を発するから、自分の存在が誰かの目に強く映るようになる。
往々にして“声”は曖昧だけれど、時に力強く響き渡って、決して消えない想いや存在を示します。


不器用で、拙くて、自分の限界さえも見えないような彼女達の声は、か細く映るかもしれません。
でも、その声が重なっていく様子に、確かな世界を広げる息吹と躍動を感じるのです。

そこに

もしも
あなたが待っていて
くれるなら

いつかそこに
声を届けるよ

エピローグのヒナの言葉と共に描かれる最後のコマは、彼女達なりの力強い“声”の結晶だと思います。

「プライベートレッスン」

つぼみ VOL.10 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)
それでは、“声”や“音”によって、常に絶対に世界が開き続けて行くのでしょうか?
現実に目を向けると、絶対や常になんて事は有り得ないと思う人も多いのではないでしょうか?
その可能性を描いたのが、次に紹介する『つぼみ』Vol.10掲載の「プライベートレッスン」です。


今作でも、一見すると、“音”によって主役:ゆきみの世界は広がっているように思えます。
引っ込み思案で人見知りだったゆきみは、ピアノという新たな表現方法に触れて、想いを表す術を手に入れます。
歌うような“音”
友人に「歌っている」ようだと評されるピアノを通して、彼女は人と話す事も出来るようになりました。
そして、長らく唯一の友人だったお隣さんの未来(みき)に、学校の友達の話までするようになります。
ゆきみのその行為の意外さは、未来が内心驚いて羨む程に、今までの彼女からは考えられない事です。


けれど、広がっているように見える彼女の世界は、実は一点に向かって閉じ続けています。
その一点が未来の存在であり、未来自身、彼女の幸せを願うと同時に彼女が自分から離れる事を恐怖している。
未来の願いと恐怖を理解した上で、ゆきみは更に強く自らの世界が未来に向かって閉じていくよう願っています。
“音”も“声”も特等席へ
ゆきみにとって、未来は常に特等席にいる存在。
ピアノの“音”も、生の“声”も、自分の世界も、いつも未来のためにある。
自分はどこにも行かない。世界には未来と自分だけで良い。そう未来に囁きかけます。


世界を広げられる“声”や“音”を持っていても、世界が広がって行くとは限らない。
詰まる所、世界が広がるかどうかは、それを発する人の心持ち次第なのでは?
今作は、声と音と自分の周囲の世界に対するまた別の可能性を描いていると思うのです。

「なずなのねいろ」

なずなのねいろ 3 (リュウコミックス)
それでは、結局、声と音によって自分の周囲の世界はどうなると言えるのか?
その一つの答えが、ナヲコ先生の代表作「なずなのねいろ」で描かれている気がしました。
今作は、『コミックリュウ』で昨年末に完結を迎えた、三味線を題材にした作品です。


三味線の漫画と言うと、最近では「ましろのおと」(羅川真里茂)も挙げられると思います。
ましろのおと(3) (月刊マガジンコミックス)
その「ましろのおと」と今作の別の共通点として、聴き慣れない三味線に惹き込まれていく事があります。
作中の人物は、三味線の“音”を聴く事で、自分が全く知らない新しい世界への扉に手を掛けるのです。
“音”に惹かれ広がる世界
今作では、主人公の伊賀君が、もう一人の主人公のなずなの“音”色によって彼の世界を広げます。
そして、三味線の演奏は、自分の存在の証明を三味線の“声”に乗せて届ける行為だと彼は感じるのです。
広がった新しい世界で、新しい“声”を、新しい“音”に乗せて、彼は真っ直ぐ進んで行きます。


同時に、彼がなずなから三味線を学んでいく中で、なずなの世界をも広げて行くのです。
しかし、変わって行く事・停滞し続けていた所から離れて進む事は、痛みも伴います。
また、誰しもが自分にとっての一番を目指して、真っ直ぐ進み続けられる訳でもありません。
世界が広がって行く痛み
伊賀君は、時になずなにとって眩し過ぎる程に一直線で、師弟関係とは言え歩幅は全く異なります。
でも、なずなは、彼の素直で真っ直ぐな所を正しいと思い、そこに憧れる気持ちも持っているのです。
だから、ゆっくりゆっくりと、なずなは彼の歩幅と速度を目指して止まっていた自分を加速させて行きます。


その結果、二人の世界だけでなく、彼等の周囲の人間の世界も広がって行きます。
歩みを止めて逃げていた人,新たなスタートを切る人,見守る人などなど、“音”と“声”によって、点と点が線で繋がるのです。
その広がりと繋がりの中で、喜怒哀楽という言葉では表現しきれない程の様々な感情が混ざり合って伝えられて行きます。
“音”と“声”で繋がる
そして、彼等の三味線の初公演では、皆の広がった世界が“音”と笑顔で満ちる事となります。
その満ち満ちた世界の中で、なずなは伊賀君に対して最大級の感謝の想いを“声”に乗せて届けるのです。
“音”と“声”で変わり広がり繋がった世界が“音”と“声”で一つになる流れは、読んでいて幸せと爽快感が胸に染み渡って来ました。



“音”と“声”によって、自分の周囲の世界が劇的に広がって行くとは限らないでしょう。
その持ち主の想い次第では、世界は変わらなかったり閉じて行ったりするかもしれません。
でも、“音”と“声”が、世界を広げて繋ぐ力を持っているという事は確かだと感じるのです。


そして、声に出さなければ想いは伝わらず、時に自分でも気付けないという事も言えると思います。
それは例えば「好き」という気持ちで、この感想記事,拙ブログ,私自身の原点でもあります。
勿論、秘めた想いや偲ぶ恋のように、自分の中に大切に閉まってあるからこその良さもあるでしょう。
ただ、誰かに伝えたい想いがある時には、“音”や“声”は届ける力を秘めているはずです。


今後も、私の「好き」という想いを、拙ブログから私なりの“音”や“声”に変えて書き続けて行きたい。
そして、拙感想を読んで下さった皆様と私自身の世界が少しでも広がって繋がっていたら、最高に楽しいはず。
そんな想いを込めて、“声”と“音”と自分の周囲の世界を描き続けているナヲコ先生作品の感想を書いてみたのでした。