“少女”達と共に在る一瞬のような永遠、永遠のような一瞬 - 「少女素数」

突然ながら、3年という期間は長いだろうか?はたまた短いだろうか?
それでは、1年や3ヶ月という期間ならば、どうだろうか?
この質問の答えは、その人の年齢,性別,忙しさ等によって、異なると思う。
しかし、世の中には、一瞬を永遠のように錯覚させたかと思えば、その永遠を一瞬のように超えていく無邪気な例外達が存在する。
その例外を真摯に描いている作品という訳で、今回は「少女素数」(長月みそか)の話。
少女素数 (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
「少女素数」は、『まんがタイムきららフォワード』連載中のタイトル通り“少女”を題材とした作品。
作者の長月みそか氏は、「あ でい いんざ らいふ」・「HR〜ほーむ・るーむ〜」から今作に至るまで、徹底して“少女”を描き追究し続けている人物。
それだけに、今作も思春期を迎えた双子の少女:あんず・すみれの日々を通じて、作者の見る“少女”という存在を全身全霊で表現しているように感じる。


第2巻では、第1巻から継続して約1年が経過。
クリスマス,苺狩り,クラス替え,修学旅行,プールへお出掛けと、春夏秋冬のイベントがバランス良く描かれている。
時間にして“たった1年”だけれど、双子の少女達の変化は目まぐるしい


例えば、双子両方の変化は、第10話のこの場面で垣間見える。
お風呂を見られて焦る
偶然、兄:富士夫がお風呂の戸を開けてしまい、双子とはち合わせるという文字にすると非常にベタな場面。
でも、第1巻から読み続けていると、この場面は衝撃的。
第2話の時点では、双子は富士夫とお風呂に入りたがっており、むしろ富士夫からそろそろ一緒に入る事を止めるよう促されていた。
それが今や、何気なく反射的にではあるけれど、兄とのお風呂は拒絶するようになっている。


更に、双子それぞれ(特にすみれ)の変化は、より顕著。
極度の人見知りで、群れる事など当然好まないすみれは、新しいクラスで大きな壁にぶつかる事になる。
頑張り過ぎて孤立してしまったり、遠慮し過ぎて気まずくなってしまったり。
新しい環境で(特に多感な時期ならば)誰もが通る試練を、ゆっくりと失敗を重ねながら、彼女は超えていく。
真美の手を取るすみれ
その結果、すみれは見違える程に成長する。
勇気を出して、一度は自分を除け者にしようとした真美の手を取る姿は、思い切り彼女を誉めてあげたくなる。


この急激な変化を象徴するのが、双子と桐生さんの以下のやり取り。
グラマーな桐生さんを羨ましがる双子に対して、桐生は「いいなあってまだ中2でしょ?」と言って、こう続ける。
たった3年?まだ3年?

桐生
「あと3年も経ったら違うわよ〜
たったの3年よ!」

あんず
「まだ3年も〜?」

すみれ
たった・・・じゃないよ!?」

この後、富士夫は、「そっか…『まだ3年』…か」と一人ぽつりと呟く。
彼の表情や真意は描かれていないけれど、その呟きは、予想外の返答に対して無意識に零れてしまった物のはず。
たった3年しか?まだ3年も?
この認識の差って、実は凄く大きな事だと思った。


桐生さんや富士夫がハッとしたように、大人達には、3年は「たった3年」と短い年月。
一方、思春期真っ只中の少女達には、3年は「まだ3年(も)」と長い年月。
永遠にも思える“少女”の一時の中で、彼女達は常に変わっている。
「まだ」という言葉は、日々成長している二人だからこそ、自然と口から出てきた言葉。


第1話で、富士夫は、あんずとすみれを妖精と言っていた。

別にすみれやあんずに限った話じゃなくてね

おんなのコってなんていうか

妖精を宿してる時期みたいなものがあるんじゃないかなあ

第5話では、富士夫と双子の両親も、双子をフェアリーと形容している。


「大きくなったね
我が家のフェアリー達は」


「なぁに?あなたまで富士夫みたいなこと言い出したりして」


「最初に言ったのはキミだよ?」


「あれ?そうだったっけ?」

近しい人間ほど、あんずとすみれの二人が持つ神秘的な輝きに気付いている。
そこまでは行かなくとも、誰の目から見ても、双子の少女達は目を惹く存在。
妖精,フェアリー,少女,女のコ,かわいい屋さん,女の子,おんなのこ etc.
作品内での表現は色々あるけれど、どれも彼女達が“特別”である事を示している。
同時に、これだけの微妙に異なる表現が全て当てはまるような“特別”を、彼女達は持っているという事。


実際には、時間は過ぎ去り、過去の日々は記憶から薄れ、二度と戻って来ない。
そして、時間の経過と共に、少女は自然と大人の女性になる。
でも、だからこそ、作中で描かれる一瞬一瞬が永遠のように思える。
いつの日か失われてしまうと分かっているからこそ、少女達は妖精のように輝いて見える。


過ぎ去り、失われるから、輝く“少女”と彼女達の毎日。
この“少女”の在り方は、万人の生活にも言える気がした。
この瞬間は今だけの物だから、その事を忘れずに日々を過ごしたい。
そう思うだけで、日々の生活が少し変わって見えて、輝き出すかもしれない。


そんな教訓めいた事も考えつつ、描き下ろしの作者のコダワリで胸キュン。
寝る時の髪型
例えば、描き下ろしで解説せずに、単なる一話だけの髪型チェンジとする事もできた訳で。
こういう細かなコダワリも、少女達を輝かせる大切な一要素&作者の愛情だと思ったのでした。