丁寧にありのままに描かれる移り行く想い、変わらない想い、純粋な想い - 「三日月の蜜」

仙石寛子水谷フーカの単行本が発売とあっては、一時的にでも復活せずにはいられないな!
と言う訳で、本日は「三日月の蜜」(仙石寛子)の話。
まんがホーム』を読んでいて単行本化が決まった時、更新するほど嬉しかったのは良い思い出。
[仙石寛子][4コマ] 単行本発売決定!!本の些細な“なりゆき”の結末は? - まんがホーム9月号:三日月の蜜


「三日月の蜜」は、仙石寛子の2冊目の単行本(作品集)。
三日月の蜜 (まんがタイムコミックス)
まんがホーム』で連載していた表題作「三日月の蜜」を中心に、同誌や今は亡き『コミックエール』掲載の読み切り10本と描き下ろし読み切り1本を収録。
表紙・裏表紙のデザインや収録形式など、昨年4月に発売となった1冊目の単行本「背伸びして情熱」の面影を感じられるのも、ファンにはニヤリと嬉しいポイントかなぁと。


表題作の「三日月の蜜」は、カフェのウェイトレス:佐倉が、男運のない常連客:桃子さんに告白する事から幕を開ける。
その告白の理由は、カフェでシェフとして働く佐倉の想い人:杉への当て付け。
桃子に優しい視線を向け、気のある態度を取りつつも、いつまでたっても告白しないチキン杉。
そんな彼に同じく情けない自分を見た佐倉は、モヤモヤを爆発させて、彼への当て付け目的で桃子さんへ告白。
佐倉と杉
そんな一方的な想いから始まった関係は、佐倉の想定を超え、三人の日々と佐倉自身を着実に変えて行く。


こう書いてみるとドロドロとした痛暗い話のようにも思えるけど、実際には、透明感のある爽やかな読み心地。
確かに儚さや不安もあるけれど、どこか心地良くて安心できる。
佐倉と桃子さん
その心地よい読み応えは、以前も書いた通り、相反する要素が調和している仙石寛子らしい雰囲気で三人の関係が綴られるからかなぁと。


じゃあ、その仙石寛子らしい雰囲気って何だろうと悶々と読み進めていて、ハッと思ったのが同単行本収録の「夢でも、夢でも」。
この作品のモノローグで、メインキャラクターの人魚はこう語っている。
人魚と彼

結論を先送りできるのは

子供の特権だなぁ と
彼は言った

…じゃあ大人になったら

(中略)

…だって
でも

大人になったってやっぱり
生きている以上、移ろう想いもあれば、変わらない想いもある。
でも、どんな想いだとしても、今の想いは自分にとっての本当。
そんな心からの純粋な想いを、丁寧にありのままに描くのが、仙石寛子らしい雰囲気の一つの理由なのかなぁと思った。


表題作以外の11の読み切り&描き下ろしでは、
「初雪、初恋」,「夢でも、夢でも」,「あなたにとって、わたしにとって」のような心がホッコリする話あり。
「今夜は七夕」,「レンゲリンネ」,「一途な恋では」のような心にチクリと来る話もアリ。
「妹が魔女に」,「女子メガネ」のようなニヨニヨする作品もアリ。


そんな中、「キラキラ青虫」や「ちょっと早いけど干支」のような一風変わった作品も、味があって良いなぁと。
あとがきの「これ(キラキラ青虫)が表題作だったら、単行本の発行部数は半分になります」という編集さんの言葉はキいた…(苦笑)
こういう変化球チック(?)な作品も作者の魅力だと思っているので、今後とも何卒掲載を!


そして、描き下ろしの「間接、直接」は内容もさる事ながら、読了後にタイトルを見て感心
あとがきにて「まんがホームでは描けないもの」と仰っているのだけれど、こういうテイストの作品ももっと読んでみたい所。


じんわりと胸に響く珠玉の作品集、読書(漫画含む)の秋のお供に是非!
そんなオススメの言葉と共に、本日は締め。



以下、しみじみ余談。
何だか見覚えがあるけど『まんがホーム』掲載ではないと思う2作品の出所が、『コミックエール』で思わず電車内で感嘆符。
そう言えば、前単行本「背伸びして情熱」は、エールコミックス(YELL! series)だったものなぁ。
キャッチコピーは難有りだったかもしれないけれど、コミックエールは良い内容の雑誌だったとしみじみ。